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「掃除学」第2章は、掃除の基礎理論として、「掃除の方程式」 、「どんな汚れ?:汚れの知識」 について解説する。
掃除の方程式とは、掃除方法決定のための公式である。
掃除方法決定 = 現状分析 × 作業法
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掃除方法=(どこに?+どんな汚れ?)×(なにを使って?+どのように?)
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掃除方法=(汚れの情報+場所・素材の情報)×(除去力+活用法)+予防
そして、はじめに行うことが、現状の分析。
では、現状分析として、汚れについて考えてみよう。
*動画でご覧になりたい方はこちら↓(一部内容が異なります2016年公開)
汚れとは
汚れは様々な情報を教えてくれる。どんな汚れか? なぜ汚れたのか等、
汚れが付着したプロセスも同時に考えると、汚れの正体や予防を、理解しやすくなると言える。
建物(住まい)の汚れとは、家を形成している各部分、室内を例に挙げると、床・壁・柱・天井・間仕切り・造作などや、家具・調度品などの表面に付着し、汚染しているすべての異物を汚れと呼んでいる。
しかし、ライフスタイルや汚れていると思う感覚などは、人それぞれ個人差があるため、汚れ方や汚れ自体の認識も、人それぞれ異なるものと言える。
掃除の方程式の簡略図で、どんな汚れ?について現状分析していく。
汚れの知識
掃除対象となる、汚れを識別するには、汚れから、情報を得ることが、大切である。そして、汚れの知識も必要とされる。
掃除対象となる汚れの種類が特定できている場合、どんな汚れなのか?
その知識として、性質を調べることが重要となる。
住まいの汚れで例を挙げると、ホコリ汚れ・油汚れ・水垢汚れ・カビ汚れなど、掃除対象となる汚れの種類がわかれば、その性質について本やインターネットで調べることもできる。
汚れの種類と性質だけでは掃除方法決定には不十分?
汚れは、一見一つの汚れに見えても、実際には複数の汚染物質が混在して汚れを形成している。
例えば、キッチンの換気扇に付着した油汚れ。その中には、料理に伴う油煙や空気中に混在する様々なホコリ汚れ、さらに経時変化に伴い酸化した別の物質、その他なども含み、油汚れの中には多くの汚れ物質が混在していると言える。
汚れの分析も、成分を正確に特定するには、専門の検査機関に依頼することにもなる。
また、成分だけでなく同じ汚れであっても、付着状態や形態などにより、掃除方法も変化する。
今回は、現場で簡易的に行える、掃除に必要な情報を調べるための、分析手順を紹介する。
汚れの分析手順
掃除の対象とする汚れを識別するには、汚れの知識が必要となる。汚れを識別するには、なぜ汚れたのか(原因)、どんな汚れか(種類)、どのように付着しているか(付着状態)、いつごろ汚れたのか(経時変化)などを調べる必要がある。
(1)なぜ汚れたのか原因を調べる →
(2)どんな汚れか種類を調べる →
(3)どのように付着しているか付着状態を調べる →
(4)いつごろ汚れたのか経時変化を調べる
(1) なぜ汚れたのか? 原因を調べる
汚れを知るうえではじめに確認することは、なぜ汚れたのか原因を知ることである。このプロセスはとても重要な事である。
原因が判らないために掃除方法を誤って、無駄な作業が増えたり、素材の損傷を招いたりもする。原因を調べる事で、汚れが付着するメカニズムや主成分を予想できるだけでなく、原因を理解して対策および予防をしない限り、また汚れが付着する可能性が高いということになる。
また、汚れ付着の原因を調べる際、付着している場所や素材についても同時に考えると、原因解明が効率よくなる。
建築物に異物が付着する原因を考えると、大きく分けて“自然的原因”と“人為的原因”の二つになる。
1) 自然的原因
住まいは、使用しないでも相当の期間が経過すれば汚れが見えてくる。
例えば、空気中に混在している浮遊物や、雨水の付着乾燥、動物や昆虫の活動に伴う汚れ、その他などがある。
1. 空気中に浮遊混在している粉塵・花粉・炭素粒子・PM2.5などが気流に運ばれて、住まいに接触し、あるいはわずかな隙間や開口部や衣類などに付着し、内部に侵入して建材などを汚染する
2. 雨水の中に混在している異物や、壁面などにたまった汚れが降雨とともに、住まいへ付着および壁面などを伝って流れ出し、雨水の乾燥とともに固着する
3. 動物類の活動やフンなどで汚れる(ねずみや鳥など)
4. カビや衛生害虫を含む昆虫などの発生によって汚れる
5. 空気中に含まれる化学物質や酸性雨などにより化学反応して汚れとなる
6. その他
2) 人為的原因
住まいには、人間の使用につれて様々な異物が付着する。このような汚れの汚染率は、自然的な原因よりもはるかに高い。その原因は↓
1. 歩行による靴裏の泥やホコリ
2. 手垢・分泌物・排泄物・抜け毛など
3. 飲食物や調理に伴う油煙、タバコの煙および灰など
4. 物品の移動に伴う細片
5. 衣服などの磨耗粉や繊維くず
6. その他
(2)どんな汚れか種類を調べる
汚れの種類は無数あるが、大きく分類すると水溶性物質(水になじむ汚れ)、油溶性物質(水をはじく汚れ)、その他汚染物質などがあり、汚れの種類によって使用する洗剤もそれぞれ異なる。しかし、現実には複数の汚染物質が混在して汚れを形成しているので、汚染原因や周囲の状況、臭いや感触、水になじむ又は水をはじくか?などによって主な汚れを判別する。
1) 汚れの基本調査
はじめに、汚染原因や周囲の状況から分析する。
ここで、だいたいの予想が立てられる。
次に、水になじむ又は水をはじくか?などによって、主な汚れを判別することになる。
さらに、目視や臭いや感触によって、分析する。
見ることで色や形や混在している汚れを確認し、臭いでわかる情報もある。
また、感触で硬さや粘度などを確認できる。汚れの硬さや粘度は作業への影響も大きくなる。
1. 汚染原因や周囲の状況から付着している汚れを分析する
2. 水になじむ又は水をはじく汚れなのかを分析する
3. 目視や臭いや感触などによって汚れを分析する
* 汚れは、複数の汚染物質が混在し形成しているので、調査していくとその数はとても多くなる。一般的にハウスダストといわれている塵・ほこり等の成分は、外から室内に侵入してくる土ほこりやPM2.5や花粉など以外は、ほとんどが室内で生じた各種の磨耗粉である。その大部分は衣類などから生じた繊維の磨耗塵や紙などからの粉であるため、この種のほこりを俗に“綿ぼこり”という。
その他に、人のフケやアカ・食品の屑・ペットの毛・カビ類・ダニ類なども含まれる。
さらに空気中に混在している微細物質などを加えるとその数はもっと多くなる。
したがって、掃除の対象となる汚れの種類を調べる時は、その主成分を判別するための基本的な調査をすると良い。
例えば、掃除対象となる汚れは、水をはじく?又は水になじむのか?
識別方法として、カーペットに付着したシミ汚れが、水溶性かそうでないかを判断する際、水で濡らししっかり絞ったタオルを、シミの上に軽く押し当てる。
水を媒介して汚れがタオルに移動するようなら、シミ汚れの主成分は水溶性と判断できる。
(3)どのように付着しているか付着状態を調べる
汚れの付着状態によっては、同じ汚れであっても除去方法が異なる。
また、汚れの種類や付着している素材の種類によっても、汚れの付着状態に違いがでてくる。
素材表面に載っているだけの汚れもあれば、素材に吸水性があるため表面だけでなく内部まで浸透している汚れもある。
汚れの除去を考える場合は、汚れ物質の種類とその性質を知るだけでなく、さらに汚れの付着状態と、そこに働いているメカニズムを知る必要がある。
汚れの付着状態は、汚れ物質の性質によって異なるだけでなく、付着されている素材などの性質によっても違ってくる他、付着後の時間的経過によっても変化する。
このように汚れの付着状態は様々で、簡単なものから複雑なものまであり、付着に働いている力も様々である。
その中でも代表的な付着状態を次の表に記す。
その他「材質と化学的に結合し付着している状態の汚れ」などがあり、代表的なものとしてトイレの尿石や錆(サビ)におかされる等がある。それ以外にも、艶が無くなる、傷がつく、焦げる、はがれる、変色または退色するなども汚れと認識され、その付着状態といえる。
(4)いつごろ汚れたのか経時変化を調べる
汚れによっては、空気に触れて酸化したり、液体の物が固まったり、時間とともに汚れが変化する。
例えば・・・鉄が酸化して錆(サビ:酸化鉄)たり、コーヒーや緑茶などに含まれるタンニン酸のしみは、時間の経過に伴って除去しにくくなる。したがって、長時間汚れを放置させない事が大切であるとともに、汚れが付着してからの経過時間により、除去作業の方法も変わるという事になる。
1) 汚れと経時変化の実例
① 長期間にわたり使用し続けたエアコンのフィルターに、ホコリなどの汚れが積み重なり、フィルター本来の機能は失われている。このホコリは通常のホコリに比べ、室内空気に含まれる湿気や油脂成分を含み、長期間にわたり吸い込まれる圧力と時間の経過に伴って、簡単な除去力では除去しにくいものとなっている。除去を行う場合は、ブラシ類など物理的な力を使い掃除機と併用して作業または洗浄すると良い。
② 長期間にわたる喫煙により、全体的に茶色く汚れたエアコンの表面カバー。周りの壁紙に比べて汚れが目立つのは、エアコンのカバーに使われている素材プラスチック樹脂は親油性で、タバコに含まれるタールと呼ばれる植物樹脂(ヤニ)と同じ樹脂であるため、壁紙に比べるとエアコンカバーは汚れが付着しやすいと言える。
また、静電気も帯びやすいため質量の軽い物質を引き寄せやすいことも要因と考えている。
③ ガスレンジに付着した汚れ。調理の際に噴きこぼれた液体が焦げてしまい、時間の経過に伴って固着し、油分の酸化など化学的な変化なども加わり、汚れは除去しにくいものとなっている。
噴きこぼれてすぐの液体のうちに拭き取れば、ラクに除去する事ができる。
④ 壁紙のカビ被害。カビが発生してから時間がたつにつれて増殖し、汚染範囲が広くなっていく。
さらに、長期間カビを放置しておくと、壁紙が変色をおこしたり、損傷したりするだけでなく、衛生的にも良くないので注意が必要である。
住まいの汚れ
住まいの汚れを特定するのは困難と言える。それは、家の構造や立地条件や居住者のライフスタイル等は様々であり、それに伴い汚れも変化してくるからである。しかし、ある程度汚れが特定出来ると対策もたてやすい。
そこで、代表的な住まいの汚れを分類して、健康に害を与える可能性と汚染範囲等を考慮して大きく3つに分けてみる。
1. ハウスダスト(ホコリ・PM2.5等)を含む室内空気汚染
2. 微生物や害虫等生物汚染(カビ・ダニ・ゴキブリ・その他バクテリアなど)
3. 日常生活に伴うその他の汚れ(代表的な汚れとして「油汚れ」やスケールとも呼ばれる「水アカ汚れ」がある)
実際に家庭で行う掃除の、代表的な汚れを4つに分類してみると・・・
住まいの4大汚れに「ホコリ汚れ」・「油汚れ」・「カビ汚れ」・「水アカ汚れ」がある。
付着してしまった汚れとして、除去するのに1番厄介な汚れを一つ挙げるとするならば、スケール汚れとも呼ばれる「水アカ汚れ」なのかもしれない。
「水アカ汚れ」は、元々はただの水滴である。そして、時間の経過とともに堆積し目立ってきてから気になりだす汚れでもあり、主成分は水の硬度を決めるカルシウムやカリウムなどのミネラル成分が乾燥して残り付着するので、汚れは非常に硬く、汚れよりも付着している素材が柔らかい場合、素材を傷つけずに汚れを除去するには、時間と技術が必要であり、素材によっては除去しきれない場合も多くあるからである。
住まいの汚れは、時間の経過とともに除去しにくくなる。反対に、付着してすぐなら除去しやすいと言う事でもある。
これらの事からも、日常的な掃除は大切であり、汚れをためなければ掃除もラクに行えると言える。
掃除のプロの現場では、汚れが経時変化に伴いとても頑固で硬い事が多い。その場合、強い除去力となる強力洗剤等化学的な力で分解するか、削るや擦る等の強い物理的な力、または両方を併用して除去する。
それは、作業の危険性や素材を傷める可能性も高くなるので、掃除の大変さとともにリスクが伴う。
汚れは気が付いた時に、なるべく早く除去をする事が掃除をラクにするのである。
しかし、わかっていてもなかなか出来ないものでもある。
だからこそ、予防が1番重要とも言える。
第3章では、「どこに?」 素材の知識 について解説したいと思う。
著者:植木照夫(クリーンプロデューサー、ベスト株式会社 代表取締役、掃除学研究所所長)
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