第2編2章:「掃除と歴史・その2」 掃除学関連知識

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問題定義の考察〜新しい掃除の歴史

「掃除と歴史・その1」で記した問題定義を考えてみると、


• 掃除は誰でもできるし、誰が行っても同じという認識やイメージがある
• 掃除のプロの社会的地位はそれほど高くない
• 掃除理論がまとまりきれていない


上記について、日本の掃除の歴史から見る、個人的見解を述べる。


昔と現代を掃除の方程式で考えてみる。

昔の掃除環境を、掃除の方程式に置き換え考えてみると・・・

どんな汚れがどこに?現状分析について現代と比較しながら想像してみる。






*動画でご覧になりたい方はこちら↓(一部内容が異なります2017年公開)


昔と現代の汚れ

昔と現代の掃除について、まずは、汚れについて比較しながら考察してみる。

*キーワード「昔:天然汚れ〜現代:化学的複合汚れ」


昔の住まいの汚れと美意識

昔の汚れは主に、砂ホコリや天然素材の摩耗塵などによる天然汚れと考えられる。


外気や生活環境に化学物質や石油製品がないので、油分もほとんどなく、汚れの化学的経時変化も少なく、主な汚れの粘度も低いので付着状態も穏やかであったと想像できる。


また、古くからある日本の美意識の一つ「わび・さび(佗・寂)」により、時間の経過によって劣化した様子も、ものの本質が表に現れることを美として捉え、楽しみ、受け入れていた時代背景があったのかもしれない。


だとするならば、現代とは汚れに対する美意識の違いが存在したとも思われる。


■ 天然の汚れ

• 主に砂ホコリや天然素材の摩耗塵

• 外気や生活環境に化学物質や石油製品がない

• 汚れの化学的経時変化も少ない

• 汚れの粘度も低く付着状態も穏やか


■昔の人の美意識

古くからある日本の美意識の一つ「わび・さび(佗・寂)」による、現代とは汚れに対する美意識の違い。



現代の住まいの汚れと美意識

産業革命や高度経済成長を経て、生活様式も大きく変化していった。


多くの化学物質が混在する大気を含め、汚れの種類も多く成分も複雑になり、化学的な汚れが混在する複合汚れが主となった。


建築様式も変わり、風通しのよい家から、新素材を多用した気密性の高い家へと変化した。

家の中で発生したホコリなど空気の汚れも、気密性の高い現代の家では、室内にたまりやすいと言える。


現代は昔に比べて、汚れの種類も多く、付着状態や経時変化も複雑となり、除去しにくい汚れが増えていると考えられる。


また、近年では、ライフスタイルの多様化や、ウイルスやアレルギーの問題などにより、室内の衛生性も重視され始め、汚れや掃除に対する各個人の考え方もそれぞれに多様化していると言える。


■ 化学的な汚れが混在する複合汚れ

• 汚れの種類も多く成分も複雑

• 外気にも多くの化学物質が混在

• 汚れの化学的経時変化も多い

• 汚れの種類によって粘度も付着状態も変化


■ 現代人の美意識

ライフスタイルの多様化や、室内の衛生性も重視され始め、汚れや掃除に対する各個人の考え方もそれぞれ多様化。



昔と現代の住まい

次に、掃除を行う場所、住まいについて昔と現代を比較しながら掃除についても考察してみる。

*キーワード「昔:天然素材〜現代:化学的素材」




昔の住まいと掃除

昔の日本家屋には、湿度の高い日本の夏を涼しく過ごすための工夫があった。

風通しの良い間取りであったり、建材も多孔質な物を使用し、土などの塗り壁や無垢材の板など、設計含む自然素材の多様で、素早い換気や調湿効果のある家全体が呼吸しているような作りであった。


昔の掃除は、ホコリなど空気の汚れも素早い換気で室内の空気が入れ替わり、洗剤を使うことなく、払う・はく・拭くなど、単純なものでもあったと予想できる。


外気もキレイな昔は、換気することでキレイな空気を取り入れ、汚れた空気を屋外に排出することが、現代よりも有効であったと言える。


また、現代と違い汚れに対する美意識の違いや、掃除自体、宗教的要素の強い行事で、衛生性は、あまり求められていなかったと思われる。


■ 天然素材

• 風通しの良い間取り

• 天然素材の多用

• 素早い換気や調湿効果のある家全体が呼吸

• 冬は寒い


■ 昔の掃除

掃除も洗剤を使うことなく、払う・はく・拭くなど、単純なもの。

また、掃除は宗教的要素の強い行事で、衛生性は求められていなかった。



現代の住まいと掃除

建築様式も変わり、天然素材でできた風通しのよい家から、化学的な新素材を多用し組み合わせた、高断熱・高気密性の家へと変化した。


空調機器等で室温を調整すると維持しやすく、1年を通じて快適で経済的でもあるが、換気量は少なくなったと言える。


現代の掃除は、同じ汚れでも、素材の違いにより掃除方法も変化するので、素材や汚れが複雑化したことにより、洗剤や掃除用具の種類も増え、掃除も複雑になったと言える。


また、近年では、ウイルスやアレルギーの問題などにより、目に見えない微細な汚染物質に対する予防意識も高まり、空気清浄機や高性能掃除機など、機械の進歩により汚れの除去方法も変化していると言える。


■ 化学的素材の多様化と複雑化

• 化学的な素材を多用し組み合わせた家

• 高断熱・高気密性の家

• 空調機器等で室温を調整すると維持しやすく快適

• 換気量は少ない


■ 現代の掃除

素材や汚れが複雑化したことにより、洗剤や掃除用具の種類も増え、掃除も複雑になった。

また、近年では、空気清浄機や高性能掃除機など、機械の進歩により汚れの除去方法も変化している。




昔と現代との現状分析のまとめ



問題定義1

掃除は誰が行っても同じという認識やイメージがある

昔の掃除は、現代に比べ汚れも素材の数も少なく、求められる仕上がりも掃除も単純であったと言え、問題定義の一つでもある、掃除は誰でもできて誰が行っても同じ仕上がりで十分だったのではないだろうか?


現代は、汚れも付着している素材も多く複雑になったため、掃除用具や洗剤の種類も多く、ウイルスやアレルギーの問題などにより、室内の衛生性も重視され、掃除方法や汚れ対する考え方も多様化していると言える。


しかし、歴史的背景に伴う、昔のイメージがそのまま残り、ライフスタイルの変化などにより時間的余裕も少なくなった現代において、一概に掃除は誰でもできて誰が行っても同じではなくなってきているが、その変化について一般的には理解されにくいのかもしれない。



問題定義2

掃除のプロの社会的地位はそれほど高くない

現代では求める掃除の質と経済的予算や作業時間などにより、自分で掃除を行うのか、専門業者に依頼をするのかを選択することができる。

専門業者にも、自分の代わりに掃除を行う家事代行や家事掃除を得意とする業者もいれば、専門性の高い業者や国家資格を持つ国が認める掃除のプロもいる。


しかし、掃除のプロの多岐にわたる専門性や国家資格などの認知度は低く、問題定義の一つでもある、「掃除専門家の社会的地位はそれほど高くない」という点について、歴史から考察してみると・・・


歴史的に見ても、時の権力者は自分で掃除はしていない。

誰でもできる単純な掃除だからこそ、世界的に、お手伝いさんやメイドと呼ばれる第3者が、日々の掃除や整理整頓を行ってきたように思える。

特に、昔ほど身分制度などがあり、身分の低い人が行ってきた経緯があるように思える。

現代の日本においても、お金を払うことで、家事や掃除のサービスを受けることができる。


しかし、掃除の国家資格を持つ専門家として仕事に従事している者は多くいるのだが、同じように国家資格を持つ医師やコックなどの調理師や建築家のように、世界的に高く評価され有名な者はいないと言っても良いほどである。


医師や調理師や建築家は、一般人が行う家庭の医学や家庭料理や日曜大工などとは、専門家として区別されているとも言える。

特に、住まいの掃除は家事掃除からは抜け出せず、掃除の専門家が高く評価されることは少ない。

そして、社会的な地位も高いとは言えない現状があると言える。


昔と今とでは、掃除の質も変わってきているのだが、歴史的な背景の影響もあり、現代の掃除に対する一般的な意識に名残があるように感じる。


また、掃除の専門家においても、卓上理論でなく、現場経験が豊富で様々な掃除に関する総合的な理論をまとめ上げた人がいないことも、掃除専門家の社会的地位がそれほど高くならない要因の一つと言えるかもしれない。



問題定義3

掃除理論がまとまりきれていない

問題定義の最後の項目、「掃除理論がまとまりきれていない」現状はどうだろうか?


公衆衛生学は、国が先導して理論的に発展してきた歴史がある。

公衆衛生と個人衛生は別のものとして考えられており、公に個人衛生に関する決まりや基準はない。

なぜなら、個人衛生は臨床医学と同じで、人それぞれ違う個人差に、基準を設けることは困難であるため、平均値による基準を設けやすい公衆衛生が発展しやすい現状があるように思える。

公衆衛生学を基に個人衛生学が発展すれば、より健康的な生活環境が生まれるだろう。

公衆衛生から始まった掃除に関する国家資格は、ビルなどの多数の人が利用する建物で基準を設け発展して行ったため、住まいなどの身近な掃除は、家事の一つとされ、個人それぞれが行ってきた経緯がある。


公衆衛生と個人衛生は、全く違った歴史をたどり、その名残と風習が、両者の交流に隔たりを生んだ要因の一つかもしれない。

これらのことが、掃除の国家資格への一般的な認知度の低さと、掃除理論がまとまりきれていない現状につながってきているのではないだろうか?


その反面、掃除理論がしっかりまとまって、新しい学問として一般的に認知されれば、掃除専門家の社会的地位も上がり、掃除は誰でもできるし誰が行っても同じ仕上がりとは思われなくなるのではないだろうか。



新しい掃除の歴史

予防医学でもある公衆衛生学から個人衛生学へ、個人衛生の集まりが公衆衛生になるとするなら、掃除はとても重要な予防医学でもある。


近年、スマートフォンやインターネットの普及に伴う情報の多様化により、経済学もマクロからミクロ重視へとシフトしている一面も増えたように感じる。

なぜなら、ミクロの集まりがマクロであり、それらを状況に応じて見直すことで、そこから新たな市場やビジネスチャンスがあるからだと思う。


歴史と共に私たちの生活が進化しているように、掃除に対する人々の意識や知識も進化していかなければならない時代のように感じる。


2006年、植木照夫が掃除理論を集約した公式「掃除の方程式」を考案。

その後、掃除理論と関連知識を集約した「掃除学」を提唱。


掃除学は、新しい掃除の歴史の一部であり、予防医学とも言える。

その根拠となる、「掃除と健康」については、次章で紹介する。



掃除学関連知識の第3章では、「掃除と健康」 について解説したいと思う。



著者:植木照夫(クリーンプロデューサーベスト株式会社 代表取締役、掃除学研究所所長)

植木照夫の掃除学研究所

掃除学研究所は、植木照夫により発案された、掃除理論の集約的公式「掃除の方程式(うえきの方程式)」と「掃除がラクになる法則(うえきの法則)」を基に、幅広く関連知識をまとめた新しい学問の研究サイトです。