第2編3章:「掃除と健康・その1(掃除学と予防医学)」 掃除学関連知識

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3-1:掃除学と予防医学


はじめに

掃除学では、掃除と健康を考える際、目に見える汚れを落とす、世間一般的な家事の中のひとつとしての掃除、すなわち「家事掃除」ではなく、掃除に関する厚生労働大臣認定の国家資格における、公衆衛生向上に伴う「清掃」の目的と同じく、「美観の向上だけでなく、人体に害を及ぼす影響のある汚染物質を生活空間から排除するための掃除」、すなわち「衛生掃除」として、家事掃除とは別の視点から掃除と健康について記す。



*動画でご覧になりたい方はこちら↓(一部内容が異なります2017年公開)



健康とは

人の健康とは、どのような状態のことを言うのだろうか?

健康の定義について世界保健機関(WHO)憲章では、その前文の中で「健康」について、次のように定義している。


健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいう。(日本WHO協会訳)


ここで、健康のキーワードとなるのは、「肉体的」・「精神的」・「社会的」 に 「満たされている状態」 となる。


掃除と健康の関係

掃除と健康とは、どのような結びつきがあるのだろうか?


健康のキーワード、「肉体的」・「精神的」・「社会的」 に 「満たされている状態」 について、掃除との関連性を考察する。


 「肉体的」良好と掃除

人体に害を及ぼす影響のある汚染物質を生活空間から排除するための掃除は良い影響を与えると言える。


 「精神的」良好と掃除

一般的に、掃除の行き届いた部屋で過ごすことは、汚れた部屋で過ごすよりも、気持ちもよく精神的にも安定した状態になりやすいと言える。


 「社会的」良好と掃除

肉体的及び精神的に良好な状態は、社会活動においても良い影響を及ぼす他、近隣住人との良好な関係にも良い影響があると言える。

(*家の掃除をしないことで、臭いや害虫の拡散及び景観を損なうなどで、近隣住人とのトラブルになる場合もある)


これらのことからも、掃除を行うことは居住者の「肉体的」・「精神的」・「社会的」 に 「満たされている状態」 への環境作りに貢献し、「掃除=健康」掃除は健康に良い影響を与えると言える。



掃除予防と予防医学

厚生労働省が認可する、掃除の国家資格の原点ともいうべき公衆衛生学は、予防医学とともに発展してきた。

その中で、掃除は清掃という名称で表されており、その違いを考察する。



公衆衛生学と掃除学

公衆衛生学とは、集団の健康の分析に基づく、地域全体の健康への脅威を扱う学問である。

その中の掃除に関する国家資格と掃除学の関係から、清掃と掃除の名称の違いについて考察し、掃除と予防医学の関連性について記す。


建築物衛生と掃除に関する国家資格

建築物衛生は公衆衛生の向上及び増進を目的とし、昭和45年に「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(略称:建築物衛生法)が制定され、多数の者が使用し、又は利用する建築物の維持管理に関して、環境衛生上必要な基準が定められた。


掃除に関する厚生労働大臣認定の国家資格、建築物環境衛生管理技術者やビルクリーニング技能士なども、建築物衛生法が定められたことにより、できた資格である。その中で、掃除は「清掃」という名称で表されている。



清掃と掃除

公衆衛生における清掃は、集団における地域全体のコミュニティーを対象にしているのに対して、掃除は個人または家族など、狭いコミュニティーを対象にしている。

この集団と個人の関係を、衛生の視点から公衆衛生と臨床医学に置き換えて、清掃と掃除を比べてみると衛生学と掃除学の要点と関係性が見えてくる。


公衆衛生と個人衛生

公衆衛生学が社会水準で健康を扱うのに対して、臨床医学は個人水準で健康を取り扱う。

「清掃」が社会水準で衛生を考えるのに対し、「掃除」は個人などの単位で衛生を考える。


社会水準で基準を作るときには様々なデータの平均値を取るなど、数値化しやすい傾向にある。

しかし、個人水準の場合、臨床医学などは多くのデータを取り様々な角度から、その症例が患者の症例と近いまたは似ているか?など基準がない。

個人はそれぞれ体質や感情なども含む様々なものが異なるので、個人の基準もそれぞれ異なるのである。


掃除も同じで、そもそも、キレイや汚いという感覚・住まいや住まい方の違い・汚れ方の違い・ライフスタイルなどは、人それぞれ異なるものだからである。


したがって、様々な掃除問題の対策も複雑となり、昔も今も「掃除が大変」という意見はなくならないと言える。


こうした個人衛生に関する予防改善は、世間一般的に認知されている家事の一つとしての掃除、すなわち汚れを除去すための掃除ではなく、厚生労働省の考える公衆衛生向上に伴う「清掃」の目的と同じく、「美観の向上だけでなく、人体に害お及ぼす影響のある汚染物質を生活空間から排除するための掃除」として、理論的に追究していくことが大切である。


公衆衛生理論を個人衛生理論に取り入れていく際に、様々な掃除問題を改善させるための新しい学問として、掃除学は重要な役割を担うと言える。



人体に害を及ぼす影響のある汚染物質

「人体に害を及ぼす影響のある汚染物質を生活空間から排除するための掃除」を考える際、掃除の方程式を活用する。


掃除環境を、掃除の方程式に置き換え考えてみると・・・まず始めに現状分析のどんな汚れがどこに?について考察する。


衛生掃除の目的として、「人体に害を及ぼす影響のある汚染物質を生活空間から排除するための掃除」だから、汚れは、人体に害を及ぼす影響のある汚染物質

どこには、個人衛生の種となる場所として住まいとする。


どんな汚れ?=空気の汚れ

ハウスクリーニング技能士を含め複数の掃除に関する国家資格を持つ私の長年の清掃実務経験から、1番注目している住まいの健康阻害要因は、室内空気環境である。


室内の空気は汚れていて、「人体に害お及ぼす影響のある汚染物質」も多く含まれていると思われる。


では、空気の汚れについて考察する。

私たち人間が、体内に摂取する1番多いものは、食物でもなく水でもなく空気である。


私たちが1日に体内に取り込む物質のうち、一番重量があるものは空気だ。

東京大学生産技術研究所の調べによると、食べ物が占める割合はたった7%、飲料が8%だ。


2000年に発表されたデータでは、空気全体で体内に入る物質重量の83%で、日に20kgにもなるという。

内訳は室内空気57%、電車などを含む公共施設の空気12%、産業排気9%、外気が5%。



室内空気の質の重要性

独立行政法人建築研究所理事長であり東京大学名誉教授でもある工学博士の村上 周三(むらかみ しゅうぞう)先生による、臨床環境医学(第9巻第2号)総説「住まいと人体」によると、


【人間は飲食をはじめとして、様々な行為を通じて物質を体内に摂取する。

注目すべきは、呼吸により室内空気から取り入れる物質の割合の6割近くを占め、他に比べて圧倒的に多いことである。

従って、室内空気の汚染の進行はそのまま体内に摂取される汚染物質の量の増加につながることになる。

すなわち、我々が健康で安全な生活を営む上で空気が清浄であることは、基本的人権と言っても良いほど重要なことなのである】とある。


水の質を気にして浄水器やミネラルウォーターを購入する人が増えているが、それに比べ空気の質はそれほど気にする人は少ないように感じる。


私が2007年に発表した「健康住宅掃除がラクな家の構想案2007」においても、ホコリなど空気の汚れを、最も重要な汚れとして、理論的かつ実践的な対策を提唱し、2014年に実験棟として自宅を建設し、実生活の中で検証している。

これらのことからも、もっとも「人体に害を及ぼす影響のある汚染物質」を、ホコリなど空気の汚れと、断定できる。



どこに?=住まい 

近年、室内の空気環境が問題視されていますが、昔はそんなことは言われていなかった。

では、室内、つまり住まいはどのように変化したのか?

その辺を知ることで、改善および予防対策の糸口が見えてくる。

昔と今の家の作りについて考察する。



昔の日本家屋

昔の日本家屋には、湿度の高い日本の夏を涼しく過ごすための工夫があった。


風通しの良い間取りであったり、建材も多孔質な物を使用し土などの塗り壁や無垢材の板など自然素材の多様で、素早い換気や調湿効果のある家全体が呼吸しているような作りでもあった。

その分、冬はすきま風等もあり寒い作りであったため、外と室内の間に縁側などの緩衝空間や熱伝導率の低い和紙などの紙を使用した障子や襖などで部屋を区切っていた。


また、衣類を厚着して温度調節したり、火鉢やこたつなどの局所暖房を使用し、起きている時間は家族が一つの部屋にいるなど、住まい方の工夫もあった。


現代の家

近年、主流になりつつある魔法瓶のような「高断熱・高気密化」の住宅建築。新建材の利用などで、以前に比べ住まいの温熱環境は大きく改善されたと言える。


外気温の影響を受けにくく、室内の温度も冷暖房器具で1度冷やしたり温めたりすると、魔法瓶のように維持する時間も長く、快適で経済性や環境性にも優れており、すきま風入る昔の日本家屋より高性能な住宅とされている。


また、人口が都市部に集中したことでマンションなどの集合住宅も多くなり、角部屋でない限り窓を2箇所以上開けて行う換気などがしにくい間取りの家も増えた。

昔と現代の家と比べて失ったもの

昔の住まいに比べ、高断熱・高気密な現代の家は快適性と経済性とを引き換えに、失ってしまったものもあるのではないだろうか?


それは、良質な室内空気環境とも言える。


新建材の多用による化学物質の発生や、家自体が呼吸できない現代住宅の気密性は、室内の空気環境の悪化に繋がっていると考えている。


大気汚染やライフスタイルの変化、集合住宅の間取りなども、窓開け換気をする住まい方に支障があるのかもしれない。


つまり、換気量を含む室内空気質の悪化は、居住者の健康に大きな影響を与えている可能性は否定できないと考えられる。


現代の高断熱・高気密住宅と旧日本家屋との比較ポイントとして住まいの換気に注目すると、気密性の高い現代の家は換気量も少なく、空気の汚れも居住者が積極的に換気や掃除を行うなど、住まい方の改善で対応していかなければならないと言える。



掃除がラクな家の実験データ

2014年に健康住宅・掃除がラクな家の実験棟として自宅を建設し、住まい方も含めて実生活の中で検証しているが、居室の換気扇に外付けのフィルターを設置し、その汚れ方を観察してみると、目視確認約1ヶ月で汚れたと実感でき、交換している現状がある。


このデータは、これまでの数年分の使用済みフィルターを、チャック付きの気密袋に入れて保存しており、機会があれば検査機関で汚染物質の数値化を行うことも可能だ。

数値化できれば、換気量に伴う汚染物質の除去量もわかり、その数値が人体にどのような影響があるのかなどの研究に役立つことで、予防医学や換気設備の開発などへの貢献も期待できる。


室内空気環境の悪化が招く病気?

空気環境の悪化で1番影響を受けるのは、呼吸により体内に摂取される汚染物質量の増加である。

それが原因で、健康維持に害を及ぼすこともあり、関連する病気になる可能性を高めていると考えられる。


例えば、シックハウス症候群や吸入性のアレルギー、慢性鼻炎や気管支喘息などの呼吸器系だけでなく、アトピー性皮膚炎なども含む様々な病気の要因になるとも言える。



改善対策と掃除学

室内の空気環境悪化に伴う改善対策は、厚生労働省や国土交通省など、様々な行政や国の機関で改善対策の研究及び情報発信がされている。


しかし、関連する様々な病気の疾患者は年々増加傾向でもある。

なぜ、増加をするのか?今までと同じ方法では改善率と疾患率は逆転しにくいとも言える。


現在までの、医学や建築学などの専門家だけでなく、私の提唱する「掃除学」の専門家を交えることで、新たな改善対策を提案できるのである。

なぜなら、掃除学は予防医学でもある。


国民病とも言われるアレルギー対策などは、10年以上も前から言われているが、疾患者のQOL向上を図りつつ、自宅で実地可能な自己管理手法の確立が求められている。


掃除学を活用し、住まい方の改善と住まい事態の改善を組み合わせて、予防対策を継続させるためにも、今までよりもラクに行える提案をすることもでき、掃除学は未来の健康を大きく変える可能を感じている。




掃除学関連知識の第3章「掃除と健康・その2」 について解説したいと思う。



著者:植木照夫(クリーンプロデューサーベスト株式会社 代表取締役、掃除学研究所所長)



植木照夫の掃除学研究所

掃除学研究所は、植木照夫により発案された、掃除理論の集約的公式「掃除の方程式(うえきの方程式)」と「掃除がラクになる法則(うえきの法則)」を基に、幅広く関連知識をまとめた新しい学問の研究サイトです。