カビ被害調査 ケース2

まさかの原因でカビ被害に! 裁判? 責任は誰にある?

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2020/12 都内の法律事務所から、賃貸マンション(集合住宅)におけるカビ被害の原因調査依頼の連絡をいただいた。




調査目的

東京都内にある、賃貸集合住宅(1K・単身者向け)にてカビ被害が発生。

壁などの建造物ではなく、高級ブランド品含む衣類・カバン・靴や家具類などに、カビが大量発生したとのこと。


居住者は数年に渡りカビ被害に悩まされ、物件を管理している不動産業者に対応を求めるも、「カビの発生は居住者の住まい方の問題」と、一方的に対応を拒否されたらしい。


居住者は、換気もよく行って住まい方にはできる限り配慮してきたつもりなのに、不動産業者の対応に不満を持ち(怒り)、裁判を前提に法律事務所に弁護依頼をしたという話でした。



調査依頼は、弁護側の焦点となる「カビ被害は誰に責任があるのか?」であり、そのためにも発生原因の調査を行い、結果に対する責任の所在を明らかにして行くための、証拠や判断資料とする目的である。

不動産業者もカビ被害についての知識がないため、一方的に拒否する姿勢が居住者を不快にさせ、追い詰める結果に・・・そのことがトラブルにつながったのではないだろうかと予想される。

何が原因かを調査し、見極めた上で判断し対応することが大切な事と言える。




事前調査

調査現場物件の土地は、海抜掲示板によると -1.2mとあり、海抜0m以下の地域。

物件から徒歩3分程度の距離に大きな川が流れており、建物の1階である。

地理的条件を考えても、湿気がたまりやすく、湿度が高くなる傾向にある場所と言える。


調査は、居住者のヒヤリングおよび室内の目視による調査と、温度・湿度の計測を行う予定(D デジタル・A アナログ測定器使用)。




調査内容

カビが発生するということは、繁殖条件が整っているという事なので、それを調査する。

*カビの繁殖条件(増殖):温度5℃~35℃(20~30℃)、湿度:60~80%(75~100%)、栄養、酸素(酸素は人が生活する上でも必要条件なので調査項目からは除外する)



ヒヤリング

入居後、初めの1年くらいは特に気にならなかったらしいが、2年目以降カビが発生し始め、その次の年からはカビ被害に悩まされ続けたという。

ヒヤリングを行った限りでは、壁にはカビは発生せず、家具や衣類・靴・カバンなどにカビ被害が出ていたらしい。


これらを考慮すると、壁内や躯体内での結露よるカビの繁殖は考え難い。

住まい方の対策として、換気はこまめに行っていたという。

休日など天気も良く昼間家に居る時は窓空け換気を行い、平日は夜帰宅になる為防犯上窓を開けることはできないものの、機械換気類は全て常時24時間稼働していたという。

また、部屋の各所に除湿剤も置いていたが、すぐに水が溜まってしまうとの事だった。


自分でできるカビ対策は、出来る限り行ってきたが改善することはなく、カビ被害は増えていったようです。



温度・湿度の計測

調査を行ったのは12月ということもあり、室内温度:D 15℃・A 16℃ 、湿度:D 48%・A 50%。温度・湿度はカビの繁殖しにくい環境であった。

(*D デジタル・A アナログ測定器使用)


しかし、近くに川が流れ海抜0m以下の土地柄を考慮すると、5月〜10月頃までなど、時期や天気によって繁殖条件は整いやすいと予想できる。

その証拠に、建物付近のブロック塀には苔が繁殖しており、年間を通じて湿度が高い傾向にあるといえた。



換気調査

調査物件は、第3種換気システムであった。

台所・風呂・洗面・トイレ4箇所の機械換気を24時間常時稼働。

機械換気類のフィルターも、目詰まりするほどの汚れはなかった。

躯体内結露でもなく、機械換気設備類に不具合も見受けられない。



何がカビ発生の原因なのか?・・・


見落としている事は無いかを考える・・・


そういえば気になることが一つあった!


居住者が部屋へ案内してくれた際の入室時に、玄関の扉が密閉されて開けにくそう(重い)にしていた印象を受けた。

玄関扉の開閉時の仕草に疑問を持ち、自然給排気口を点検してみる事に。


*これは良くある事なのだが、現代の家は高気密・高断熱という魔法瓶のような作りになっており、室内温度を調節しやすいようになっている。

第3種換気システムの場合、機械換気設備は室内の空気を排出することが目的であり、出た分の空気を自然給排気口から取り入れる仕組みになっている。

しかし、自宅の換気システムを理解している人は意外にも少なく、自然給排気口から外部の冷気が入ることや汚れることなどから、閉めている事が多々ある。

機械換気を稼働している時、自然給排気口が閉じていると室内は負圧となり、結果外から入室する際に玄関の扉が開けにくくなる現象が起きるのである。

詳しくは、「住まいの換気の新常識!」にて


点検の結果、自然給排気口は開いているが、排気量に対して室内への給気量が少ないと感じた。


もしや・・・


疑問を感じ自然給排気口を分解してみると、外見からは分からなかったが、この物件の自然給排気口は複雑な構造になっており、外部を含む分解部品の一部は、仰向けになって寝ないと確認出来ず工具が必要なほどだった。

内部のフィルターや外部給気口部の防虫網は汚れにより目詰まりしていた。




調査結果

住まいの問題点:当該物件の第3種換気システムにおける給気口詰り(内部フィルター・防虫網)により、排気に対して給気少なく換気性能の低下を確認(フィルター無し室内給気量増える)。

*室内給気口部にティッシュの細くしたものを付け、フィルター有りの場合と取外した場合で、風量を目視で確認できるように細工した結果、明らかな違いが出た。

フィルターが無い時は、排気量に対して給気の量が多いことを目視で確認できる結果となった。



住まい方

居住者は、積極的に機械換気24h運転やエアコンの除湿機能活用など、カビ予防のための換気や湿度低下対策を、生活の中で行なっているという、ヒヤリング結果であった(除湿剤も各所に置く)。


そして居住者は、自然給排気口にフィルターが付いていることは外部からは解りづらく、賃貸契約時にも知らされていなかったため、今回の調査で分解して初めて知ったようです。


これらの調査結果から、カビ被害の原因は自然給排気口のフィルター目詰まりによる換気不順が、大きな要因と思われる。


海抜-1.2mと低地な土地柄の1階部は、季節により湿気がたまりやすく、湿度は高くなる傾向にある。

特に梅雨時期〜夏・秋など、湿・温度の高い時期における換気性能低下は、カビ繁殖の条件が整いやすいといえ、換気不順によるカビの繁殖増の可能性は非常に高いと思われる。


備考

測定器は、デジタルとアナログの2機種にて測定。

  • デジタル:Dienmern 空気汚染測定器(PM2.5、PM1.0、HCHO、TVOC、温度、湿度、他など)
  • アナログ:TANITA 温度・湿度計
  • 建物:RC造、1F、第3種換気システム




責任所在の焦点

カビ被害の原因と思われる、換気システムの不具合。

それは、給排気口の目詰まりによるメンテナンス不足。


居住者は換気システムやメンテナンスについて、不動産管理会社から説明を受けておらず、給排気口の構造や設置状況も、一般的には個人で説明もなしに管理できるとは思えない状況であった。


個人的な意見ではあるが、案件に関しては賃貸契約時における、不動産管理会社および物件に関する責任者の説明不足等による、メンテナンス不備がカビ被害を招いたと思われる。


しかし、不動産管理会社および物件に関する責任者も理解していなかったと思わることも想定すると、換気基準に関する建築基準法を定める国(国土交通省)に、居住者への説明義務がないことに疑問も感じる。


実際、私が多くの現場で聞く居住者の意見では、換気システムについての説明はなく、使い方を知らない人が多いのが現状である。


また私を含み、それらを理解し調査できる専門家が認知されていないことも、トラブルを招いた要因の一つなのかもしれない。


現代の高気密住宅における換気システムの理解は、居住者の健康にとってとても重要なことであり、その説明は義務化に値するほどのことではないだろうか?


法的な責任の所在は、調査依頼者でもある法律事務所に託し、裁判の結果がこの国の現状結果でもあると言えよう。

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