第2編:第5章「世界を変える掃除学」 掃除学関連知識

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掃除学は様々な学問との連携で、その真価が生まれる。

様々な学問との連携には、掃除理論の集約的公式である「掃除の方程式(うえきの方程式)」や、掃除予防理論の「掃除がラクになる法則(うえきの法則)」が重要となる。

掃除学を軸に、そのほかの専門知識が関わることで、今まで仕方ないと諦めていた掃除問題も、改善していく可能性を秘めているのである。

それは、人々の暮らしを、より快適で健康的なものにしてくれるだけでなく、経済的にも環境的にも良い社会を実現できるものと感じている。


様々な業界や世界を変える可能性を秘めている掃除学ではあるが、まず初めに、掃除との関係が最も深い掃除業界について解説していく。






掃除学と掃除業界の現状

掃除学がもたらす様々な世界の発展と、掃除業界の新たな未来について考える。


掃除業界の全体像について、どれだけの人が知っているだろう?


掃除のプロと呼ばれる人たちでさえも、詳細な業界像は知られていないと言える。

そもそも、掃除業界の全体像は不透明でもあり、世間一般的な認知度は極めて低いと言える。


まずは、その掃除業界について分析してみよう。



掃除とは

「掃除をする」 と言う行為は、大人〜子供まで、身近に誰もが行う事であると言える。


一般的に「掃除」とは、対象となる場所のゴミやホコリやその他の汚れを取り除く事で、きれいにすることである。


また、厚生労働省が関わる、掃除の国家資格では、美観の向上だけでなく人体に害を及ぼす汚染物質を生活空間から排除することを、掃除の目的としている。

その中で掃除は清掃と呼ばれ、ここに個人衛生と公衆衛生の呼び方の違いがあると言える。




掃除業界

世の中には、掃除を職業としている会社が多くある。


掃除を行う建物やものの種類は無数にあるといえ、ライフスタイルや掃除を行う目的も同じでない為、汚れや掃除方法もそれぞれ異なると言える。

それに、キレイや汚いという感覚は人それぞれ違うのである。

だから、掃除業界も複雑で、多岐にわたる専門業者が多く存在し、私も知らない専門分野がある。


掃除理論がまとまりきれていなかった背景もあり、掃除業界もまとまりきれていないと言える。


では、掃除業界について個人的な見解ではあるが、ここに記す。



法律

掃除業界の発展は、建築物における衛生的環境の確保に関する法律(昭和四十五年四月十四日法律第二十号)が定められたことが1番の要因と言える。


多数の者が使用し、又は利用する建築物の維持管理に関し環境衛生上必要な事項等を定めることにより、その建築物における衛生的な環境の確保を図り、もつて公衆衛生の向上及び増進に資することを目的としている。

掃除に関する国家資格も、この法律により確立されたと言える。

※ この法律の適用を受ける建築物は、同法の第2条で「特定建築物」として定義されている。



「特定建築物」とは  

「特定建築物」とは、興行場、百貨店、店舗、事務所、学校、共同住宅等の用に供される相当程度の規 模を有する建築物で、多数の者が使用し、又は利用し、かつ、その維持管理について環境衛生上特に配 慮が必要なものとして次にあげるものが政令で定められている。


  (建築物衛生法 第2条)

1. 興行場、百貨店、集会場(1)、図書館、博物館、美術館又は遊技場

2. 店舗(2)又は事務所(3)

3. 学校教育法第1条に規定する学校以外の学校(4)(研修所を含む)

4. 旅館

*1〜4については、床面積3000m2以上のものが該当する

5. 学校教育法第1条に規定する学校(小学校、中学校、高等学校、大学、高等専門学校、盲学校、 聾学校、養護学校及び幼稚園をいう)で、床面積8000m2以上のもの

(1) 集会場とは ; 公民館、市民ホール、各種会館、結婚式場等が該当します。 (2) 店舗とは ; 一般卸売店、小売店、飲食店、喫茶店、バー、理容所、美容所、その他サービス業に係る店舗等を含みます。

(3) 事務所とは ; 人文科学系の研究所、銀行等が該当します。〔銀行については、(2)の店舗にも該当します。〕

(4) 学校教育法第1条に規定する学校以外の学校とは ; 各種学校等が含まれます。

(注)工場 、作業場 、病院 、寄宿舎 、駅舎 、寺院 、教会 等は 、「特定建築物」 に該当しない。


尚 、共同住宅は法の例示にはあるが 、個人住宅の集積という点から 「特定建築物」 とはされていない。


※ 「特定建築物」の所有者等で、当該「特定建築物」の維持管理についての権限を有するものは、 政令で定める基準(「建築物環境衛生管理基準」)に従って「特定建築物」の維持管理をしなければならない。 (建築物衛生法 第4条)  

尚、「特定建築物」以外の建築物であっても、多数のものが使用し、又は利用する建築物に ついても、「建築物環境衛生管理基準」に従って維持管理をするように努めることが求められている。 (建築物衛生法 第4条)

※「特定建築物」の所有者等は、維持管理の監督をさせるために、国家資格である「建築物環境 衛生管理技術者」を選任することが必要である。 (建築物衛生法 第6条)

「建築物環境衛生管理基準」では 空気環境の調整 、給水及び排水の管理 、清掃 、ねずみ・昆虫等の防除 、その他環境衛生上良好な 状態を維持するのに必要な措置が定められている。


例「空気環境の測定項目と基準値」

特定及び特殊建築物における事務室環境基準(事務所衛生基準規則 労働省令第32号 平成9年10月1日)

特定建築物における建築物環境衛生管理基準だけみても、その中の清掃項目は多くあり、それ以外にも各建物で必要な清掃項目がある。

そして、建物以外を含む掃除業界全体で見ると、その専門性の多さは計り知れないとも言えるのである。




公衆衛生と個人衛生

日常的に身近な存在でもあり誰もが行う掃除だが、建築物に限定してもその範囲は広く、掃除の質で見てもカンタンな掃除から高い技術が必要とされるものまで多種多様と言える。

そして、それに伴い掃除業者のサービス内容や専門性も細分化されてきた。


掃除業界を大きく2つに分けてみると、公衆衛生に関する掃除と個人衛生に関する掃除に区分する事ができる。


主に公衆衛生となるビルなどの大型建築物(床面積3000㎡以上の特殊建築物など)の掃除を行う専門業者は、各掃除の作業量も多いため専門性が強く、室内を主とした建物の清掃(日常清掃・定期清掃)を行う業者や、外壁や窓など高所の掃除を行う業者、害虫駆除・防カビなどの生物汚染対策業者、空調ダクト清掃業者、貯水槽・浄化槽の清掃業者、新築やリフォームのみを主とした養生引き渡しクリーニング業者、引越し後の原状回復クリーニング業者などなど、公衆衛生の対象となる大型建築物においても、求められる状況に応じて清掃業者も多種多様である。


また、マンションなどの場合、マンション管理のもとに行われる廊下やエントランスなどの共用部の掃除と、居住者が個人で管理する専有部の掃除とに別れる。

この図式は、公衆衛生と個人衛生が混在している建築物ともいえる。


これは、ビルなども貸し出ししている店舗やオフィスの内部環境、すなわち専有部と廊下やエレベーターやエントランスなどの共用部に、管理区域が分かれている場合もある。


また、戸建て住宅などは、居住者による個人衛生の管理が主となるのである。




公衆衛生に関わる掃除

大型建築物の場合、オーナーとなる個人および会社等が、土地や物件を探しに不動産業界に関わる。

そして、大型建築物の建設には、多くの費用がかかる。

だからこそ、保証や実績を考えても業界大手に依頼をする人が多いのだろう。


1部の最大手企業では、土地の売買や不動産の仲介業を行い、自社グループの銀行から融資も行い、自社グループの建設部門で建物を建設し、自社グループの管理会社で建物の維持管理などを一括して請け負うこともできる。

オーナーもいろいろな会社と契約するよりも、1つの会社ですべて管理できればラクといえるので、統括管理ができる大手企業に依頼するメリットがある。


しかし、掃除業界からしてみると、ビルの建設計画の時点で掃除に関する管理会社も決まっているという事になる。

掃除の関連会社はとても多い。

しかし、仕事の元請けとなる大手管理会社を頂点とした、大型建築物に関する市場独占的な巨大ピラミッドの図式は、何十年もかわっていないとも言える。


大手管理会社は、管理棟数も多いので、まとめて発注する事もできるし、細分化する事でより価格競争を促す事にもなる。

実際に作業する掃除業者は、元請けからの3次請け・4次請けなども多くある。


掃除作業の細分化は悪い事ばかりでもなく、細分化された事で生まれた、専門性の高い技術の向上にも繋がった。



掃除作業の細分化例

例えば、ガラス清掃。

日常清掃や床面の洗浄を定期的に行う業者も、一部ガラス清掃を行うことがある。


ビルクリーニング技能士の実技試験項目にあるガラス清掃は、水切りワイパーとなる「スクイジー」と洗剤塗布や汚れを擦る役目を果たす「シャンパー」の組合せによる、縦または横引き作業方法がある。


シャンパーでガラス面に洗剤を塗布しながら、汚れに応じて擦り作業を行う。その後、スクイジーをガラス上部から、上から下への縦引きもしくは、左から右への横引き(左右どちらからでも可)にて、作業面(作業範囲)の大きさと用具のサイズにより数回に作業を分けて行う。


ガラスの面積が大きくなるほど、タオルなどによる拭き掃除よりも早くきれいに仕上がり、手順さえ覚えれば誰もがカンタンに行える作業法である。


【*以前テレビの企画で、一般な家庭のバルコニー面にある同じ広さの1枚のガラス掃除を、通常掃除方法として一般的なガラス洗剤をスプレーしてタオルで拭き取るという掃除方法と、プロ掃除方法としてスクイジーとシャンパーによる縦引き作業法との作業時間を比べたところ、実に3分もの差が出た・・・。

1枚で3分という事は、撮影場所の部屋だけでも8枚のガラスがあり、裏表で考えると16枚。

通常掃除方法の場合1枚4分以上×16枚=64分(1時間4分)、プロ掃除方法の場合1枚1分×16枚=16分。部屋にある16枚のガラスを掃除した時の作業時間の差は、48分(16枚×3分=48分)。

家にあるガラス全て×裏表2枚、家1軒でどのくらいの時間と労力の差が出るのか、数字でみると驚いた。

プロの初歩的な技も一般家庭で行う掃除に比べると、これだけの差が出た例である。】


その縦または横引き作業法とは別に、ガラス清掃専門業者は一筆書きのように動作を止めない「回し引き」という技術を使う。

回し引きの方が作業効率も良く、縦・横引きよりも早くきれいになる反面、質の高い仕上がりを求める場合、繊細で高い技術が必要とされる。


ずいぶん前になるが、ガラス清掃の専門知識に興味のあった私は、都内でも大手のガラス清掃専門会社に修行をしにいった時の事である。

面接で、「目の前にあるガラスを切ってもらえる?(ガラス清掃の事)」といわれ、自信のあった私は得意な回し引きを披露した。


すると、「あ〜床屋(ゆかや)のガラスね」と失笑されたのだ。


何がいけなかったのか聞くと、「手数が多すぎる・スクイジーの動きが止まる瞬間がある・窓枠のコーキングにスクイジーのゴムが乗り上げ、ガラスからはみ出ている」などなど、どれも一瞬の動作ではあるがダメ出しだらけであった。


後日、初仕事は大型ビルのエントランスのガラス清掃。

先輩作業員はゴンドラに乗って高所ガラス清掃を行っていた。

エントランスのガラスは1枚がとても大きく作業範囲も広かった。


昼をすぎても終わらず夕方を迎えようとしていたとき、見かねた先輩作業員は「こんなの半日で終わらなきゃダメですよ〜」といいながら作業を手伝ってくれた。


その際に、「両手回し」ができるとスピードアップするとアドバイスをくれた。


【*「両手回し引き」の技術は、毎月定期的にガラス清掃が入っているような、汚染度の低い環境で使用する事が効果的と考えている。

汚染度が上がる程、高い技術力が求められる。

通常の「回し引き」とは、右手(利き手)にシャンパーを持ちガラス面に洗剤水を塗布しながら擦り作業を行い、汚れを浮かせる。

次に、右手のシャンパーを置きスクイジー持ち替えて、ガラス面の洗浄水とともに浮いている汚れごと、一筆書きのように動きを止めずゴムの部分でワイパーのように除去していく。

つまり、右手1本で作業を行っているのである。

「両手回し引き」は左手にシャンパーを持ち、右手(利き手)にスクイジーを持つ。

ガラス面の作業手順となる「一筆書き」を先行するように左手のシャンパー作業を行い、ワンテンポ遅れて右手のスクイジーで汚水を除去していく。

つまり、両手を同時にコントロールしなければならないのである。

動作のリズムも微妙に異なり、なれるためには体に覚え込ませる反復練習が必要だった。】


私は、仕事が終わり家に帰ってから反復練習を続け1ヶ月後、同じ現場を訪れた際、成果もあってか、半日で担当箇所のガラス清掃は終わっていた。


ガラス清掃専門業者の技術エピソードはまだまだあるが、単純な用具で行う掃除ほど技術動作の奥が深く、ガラス1枚に対して最も効率よく無駄を省いた作業方法で、数秒単位で短縮する事を心がけていた。

ビルなどのガラスの枚数は多く、セッティングも含め1枚のガラスにおける1作業工程にたいして数十秒縮めると1日で数時間短縮される事もある。


実際に、修行したガラス清掃専門会社のエース的存在の職人は、高所ロープ作業における、準備となるロープのセッティングからブランコに乗り込む動作でさえ、数秒単位の効率化を意識した動きを模索実践していた。

当時とは違い現在では、用具の進歩もあり更なるスピードアップをはかれるだろう。


スピードアップができると作業員の人数も減らせ、技術力の高さは人件費削減につながり、利益に結びつくのである。


床清掃の傍ら行うガラス清掃と、毎日ガラス清掃のみを行う専門業者とのガラス清掃の技術力の差は、当然専門業者の方が高いのである。

それは、逆も然りである。



個人衛生に関わる掃除のプロ

ビルなどの大型建築物の公衆衛生とは違い、住宅などは個人衛生とされ、公の衛生管理基準などはない。

*衛生基準はないが、住宅は国土交通省の建築基準法に基づき建設される。


掃除業界の中でも住宅になると民間基準の要素が強くなり、個人が行う日常的な掃除を代わりに行う家事代行業者や便利屋などのほか、人気のある限られた掃除メニューをマニュアル化して、初心者を数日程度の研修で誰でも掃除のプロになれるとしている、大手ハウスクリーニング会社などもある。

(*2000年に私が取得したビルクリーニング技能試験では、掃除の国家資格を取得するためには基本的に最低3年の実務経験が必要とされた)


メリットとしては人材の育成が短期間で行えるため、多くの顧客ニーズに対応することができ、ハウスクリーニングという分野を大きく躍進させてきた。

掃除のプロという存在を、一般的に広く認知させて居住者からも身近な存在となった。


デメリットとしては、人気メニューの限定とマニュアル化により、建物の掃除に関する多くの作業項目には対応できない。

一人の作業員がすべてに対応できるような、全体像を把握でき、技術幅の広い職人が育ちにくい環境であると言える。

これは、公衆衛生における清掃分野でも、同じことが言える。


また、掃除は誰もが行う行為だからこそ「だれでもできる!」というイメージも一般的に定着している感もあり、「同じ作業でも行う者の技量により仕上がりが異なる」という当たり前の事が同じように定着していないのは、掃除の国家資格の認知度・普及度の低さや、一般的な掃除のプロとして技量の基準がない事のほか、掃除業界の不透明さ等も関係しているのかもしれない。


結果、価格重視の傾向になり、料金低下の価格競争が生み出す質の低下は、負のスパイラルと言えるのかもしれない。

これは、掃除業界に限ったことではないのだが・・・。


公衆衛生と個人衛生の掃除に携わるプロの業界、どちらが優れているという問題ではなく、こうした業界の全体像が不透明であり、依頼者のほとんどは掃除業界の多岐にわたる専門性についても知らないことが多い。


一般的には掃除のプロという形で、一括りにされているようだ。


事実「8日間の研修であなたもプロのお掃除屋」といったベンチャー企業の広告を見たことがあるのだが、「簡単で私でもこんなに儲かりました!」的なことしか書いていなかった。

8日間でなった掃除のプロと、3年以上の実務経験を経て国家資格を取得した掃除のプロも、一般的には同じ掃除のプロとして一括りにされている現状がある。


その他、便利屋や家事代行業者などは基本的に「居住者の代わりに」行う掃除のため、掃除の国家資格や大手ハウスクリーニング会社のマニュアルとも違い、個人的に開業している業者も数多く存在する。


こうした背景もあり、他業種の職人から「掃除は誰でもできるでしょ?」といわれた事も1度や2度ではない事実もある。


ある意味間違いではないのだが・・・


「料理」で例えるなら、誰でも作れる簡単なレシピの料理もあれば、高い技術を持つ一流のコックにしか作れない料理もある。

どちらも料理といえば料理だが、内容に大きな差がある。


掃除も作業を行う者により仕上がりに大きな違いが出てくるものである。


どの業界でも一流の職人になるほど共通することは、「閃き」や「加減」を熟知しているということである。

閃きにより難問を解決するための糸口を見つけたり、力加減や現場全体を収める加減など、多くの現場経験と知識が織りなす、究極の技術と言える。


本来、その時の予算や求めている仕上がりレベルを考慮して、その時の環境にあった技術やそれを持つ掃除会社を選ぶ事が望ましい。


どの業界でも同じことがいえると思うのだが、数こそ少ないがその道を極めようとする高い技術を持つ職人や、様々な問題点を解決するクリエーターがいるものである。


そして掃除のプロもいろいろあるので、必要に応じた(適した)業者を調べて選択することができるのである。

仮に、同じ物を掃除するにしても依頼者の求める掃除の仕上がりによって業者が異なる。


つまり掃除も、低料金で自分の代わりレベルの仕上がりで良い人と、アレルギーなど身体的な関係もあり多少価格が高くても質の高い仕上がりを求める人がいる場合、両者の求めている掃除業者は異なるということである。


しかし、混沌とした掃除業界で的確に業者を選出するのは、困難な状況であるのも確かである。



家事掃除と衛生掃除

個人衛生となる掃除を考えるとき、その目的によって「家事掃除」と「衛生掃除」の大きく2つに分けることができる。


【*家事は私たちの暮らしに欠かせない行為であり、生きるために必要なことでもある。

炊事や洗濯などを含め、健康に大きく影響を及ぼす大切なことである。

その中で、掃除に関する分類を、歴史的な一般見解の掃除と、公衆衛生学における清掃基準で考えた個人衛生としての掃除に分けたものであり、家事掃除と衛生掃除どちらが優れていてどちらが悪いというものではない。】


掃除学では、世間一般的にイメージされる、日常にある目に見える汚れを取り除く家事としての掃除「家事掃除」とは違う、公衆衛生の考えも取り入れた、衛生掃除を重視している。

掃除に関する国家資格などでは、「衛生的な環境を確保するための掃除」として考えられている。

この辺の一般認識はとても曖昧で、掃除のプロと呼ばれる人たちでも、国家資格の存在すら知らない人がいる。


このような背景から、掃除業界のジャンルも複雑であり、掃除理論がまとまりきれていない現状に、つながってきているとも考えている。

建物を住まいに限定した個人衛生となるハウスクリーニングの場合でも、人が住んでいる在宅と、住んでいない空家とでは、それぞれを専門にした業者もいる。


在宅の場合、依頼者は居住者またはその関係者であることが多く、空家は管理者や仲介業者やオーナーであることが多い。

当然、依頼者によって掃除の仕上がりのレベルも変わるし、対応や作業方法も変化する。


例えば、依頼者が賃貸物件を持つオーナーの場合、自分の家(在宅)を掃除してもらうのと、他人の家(空家賃貸物件)の掃除を依頼するのでは、求める仕上がりレベルや費用は異なる傾向にある。


在宅の場合依頼者の家だから、依頼者の基準で仕上がりをチェックする。

仕上がりの基準は依頼者により異なるほか、依頼者とのコミュニケーションも大切となるため、身なりや話し方などエチケット含む接客対応も必要とされる。


空家の場合、多くは賃貸物件などの退去後のクリーニングとなり、管理者やオーナーからみると他人の家となるため、できるだけ低予算を求めることが多く、予算に応じた仕上がりレベルが求められる。


大概の場合、依頼者側(管理者)の予算に応じた仕上がり平均的レベルが決まっているので、作業もパターン化しやすい傾向にある。

賃貸入居者も、他人の家を借りるという事実から、入居時の掃除仕上がりレベルを、持ち家ほど気にしない傾向にある。


接客対応がないので、細かい気配りも少なく、作業方法の制限も少ない傾向にあるため、人材育成も在宅に比べると楽であるとも言える。


例を挙げるなら、仮に土足で作業していても、最終引き渡し時に綺麗になっていれば、その作業過程まで気にされることはないが、在宅の場合考えられない行為といえる。

しかし、同じ空き家でも入居者が依頼者の場合、作業中にチェックされることは少ないが、通常の空き家よりも料金も仕上がりレベルも高くなる場合が多い。




細分化される専門性

住まいを対象とした掃除専門業者も、在宅と空家の分類以外に、さらに細分化した構図がある。


例えば、レンジフードやエアコンなどの専門設備だけを得意とする業者、風呂釜のパイプや配管などを専門とする業者、外装や高所作業を専門とする業者など、設備や場所を特定した専門業者もいる。


また、害虫駆除や除カビ・防カビや鳥獣被害など、生物汚染を専門とする業者などもいるのである。


その他、遺品整理にまつわる掃除や、自殺などのいわく付き物件を専門としている業者もいる。


その背景には、それぞれ掃除する対象を絞ることで、作業技術の向上や用具の限定などにより、コストを抑え利益率を高めている背景もある。




人材による違い

同じハウスクリーニングでも、目的やそれに伴う人材でも業者を分類できる。


掃除を依頼する業者にも、便利屋、家事代行、掃除大手フランチャイズ業者、専門性の高い業者、小規模掃除専門業者などがある。


依頼する掃除の目的も、自分の代わりに掃除をしてほしいという場合、便利屋や家事代行業者などが適している場合が多い。


また、プロに頼むのだから自分で行う以上の仕上がりを求める場合、掃除大手フランチャイズ業者や小規模掃除専門業者のように、掃除技術の専門的な教育を行なっている方が目的に合っている。


ただし、一概に業者(会社)単位では技術レベルを分類することは難しく、実際に掃除を行う人材のレベルが大切と言える。


人材のレベルは、行う作業員の性格や掃除技術の習得過程にあるが、資格などは技術レベルを測るわかりやすい1つの基準にもなる。

基準を分類するなら、社内テストによる資格・掃除関連協会による資格・国家資格などが、技術レベルの目安となる基準と言える。

これらの基準が1つにまとめられていないことも、掃除業界の多岐にわたる専門性と複雑な細分化になっている要因なのかもしれない。

また、資格を持っていない者でも、経験や独学により作業の技術レベルが高い場合もある。


何れにしても、依頼者の目的や予算や求める仕上がりレベルに応じて、それに適した作業者の技術レベルが必要とされる。

しかし、技術の高い人材育成には本人のやる気と時間が多く必要となり、レベルが高くなるほど人材は少ない。

反面、マニュアル化したプログラムで初心者をソコソコのレベルに育成することは容易であり、多くの顧客にサービスを提供できるメリットもある。




掃除業界の細分化と人材育成及び認知度について


専門能力から総合能力育成へ

掃除業界は、価格競争と作業の細分化による利益向上を背景に、薄れていく重要なポジションとなる作業員の育成問題がある。

専門性に特化するあまり、建物全体で掃除を行い考えられる、総合的な作業を行い考えることのできる人材が少ないと感じている。


日常清掃から始まり、床洗浄や外壁の高所ロープ作業もこなし、害虫駆除から消臭作業まで、ビル・住まい問わず対応できる人材・・・決められた作業方法だけを繰り返し行う作業員ではなく、状況に応じて考え改善策を提案できる人材。

各専門業者に比べると実務時間が短くなる分スピードや技術は若干劣るが、その掃除問題を解決できるだけの理論と総合的な現場経験が必要とされる。


総合能力の高い人材の育成は、専門能力のみに特化した人材よりも、建物の掃除を総合的に考えられるようになる。

そのような人材は、建物の掃除という範囲で総合的に監督する立場の作業員である。

監督的立場に立つことで、今までよりも多くの掃除問題を、効率的で質の高い解決ができるようになると考えている。


しかし、その必要性と重要性の認知には、業界にも世間一般的にも、まだまだ時間が必要のようだ。

そのためにも、掃除をもっと理論的に考え、明確な学問としての説明を、誰かが発信していかないと伝わりにくいと感じている。



掃除学と資格

掃除のプロといっても、認知度や社会的地位は高くなく、国家資格がある事すら知らない人が多くいる。


同じ厚生労働省の国家資格でも、医師や調理師はどうだろう、同じ建物に携わる建築士はどうだろう、優れた専門家は国家資格を取得した個人として、認知度や社会的地位も高い。


メディアをみても、掃除の専門家として登場するのは、医師・企業の生活アドバイザー・芸能人・カリスマ主婦など、国が認める掃除のプロではないことが多い。


掃除現場の実務経験豊富で、掃除に関する国家資格を取得している者が、掃除の専門家として講義する事は稀だろう。

個人的には、私が最初の専門家であるとも感じる。


なぜなら、他の人は作業方法を伝えることはできても、学問の一つとして考えられるだけの、明確な掃除理論を説明できないからであろう。


掃除のプロも、目の前の汚れを効率よく落とすために、どんな洗剤や用具がよいのかなど、「答え」となる掃除方法の情報を調べる。

掃除作業としては、答えがわかれば実践できるので、正解である。


しかし、予防や改善を考えた時、目の前の汚れが「なぜ付着したのか?」など、現状分析を基にした掃除方法決定までの「プロセス」が大切であり、そこに掃除理論が集約されているのである。


現在まで、掃除に関連する知識情報は多く存在するが、それらの知識をどのように活用するのか、指標的役割を果たす公式がなかったため、明確な掃除理論を確立できなかったのではないだろうか。


私が2006年に考案した掃除学の「掃除の方程式」は、掃除理論の集約であり、掃除方法決定のための指標的公式でもある。

しかし、掃除学を学ぶ事で解決できる掃除問題といっても、漠然としすぎてわかりづらいものである。

だからこそ、掃除学はこれからもっと多くの人たちにより、議論されるべき新しい学問とも言える。



掃除学による掃除師免許(国家資格)の提案

多岐にわたる専門性と複雑に細分化された掃除業界。

もし、基準を一つにするならば、医師や調理師のように国家資格でまとめることが望ましいと感じている。


しかし、掃除の国家資格も、ビルクリーニング技能士やハウスクリーニング技能士や建築物衛生管理技術者など専門性も高いため、細分化された多岐にわたる掃除業界をまとめる「掃除資格」には適さないとも言える。


そこで、掃除学を活用した掃除師免許のような、様々な掃除に対応できる基礎理論に特化した内容の国家資格を作り、掃除に携わる業界を一つの基準でまとめることで、掃除のプロとそうでない者の差別化を図る。

さらに掃除師は職業として、掃除現場作業に携わるためだけのものではない、学術的な指導やコンサルティング・アドバイザーなど、職種を広げることも目的としたい。


より多くの者が掃除師免許を取得できるよう、現行の掃除に関する国家資格の内容のように、作業方法の技能伝達やそれに伴う知識に特化するよりも(技能検定資格ではなく)、掃除方法を考えることのできる基礎理論や活用法を含む関連知識など、様々な業種や学生や一般の人たちにも掃除について学ぶ場であり、レベルの違いを等級別にステップアップ方式のなかで、理論のみ(技能を加えていくのも可)の資格にするのも良いだろう。




掃除学と様々な学問との連携

掃除学は様々な学問との連携で、その真価が生まれる。

どのような項目で連携するかは、掃除の方程式の項目で考えるとわかりやすい。

掃除の方程式では、どんな汚れ? が どこに? あるのかを理解して、 なにを使って(物理的除去力・化学的除去力)、どのように作業するのか?を考える。

この時、予防についても考えることで次回からの掃除がラクになる。



つまり、汚れの知識・場所や素材の知識・用具の知識・洗剤の知識・作業の知識・予防の知識となる。

例えば・・・



汚れの知識と他学問との連携

汚れの知識で考えると、例えばハウスダストの場合、それに関連する専門知識がある。


ハウスダストは、衣類の摩耗塵・カビの胞子・ダニの死骸・人の頭髪や皮脂・そのほかなどがある。

衣類にも様々な種類がありその専門知識があり、カビやダニなどの生物にもその専門知識がある。

さらに、ハウスダストはアレルゲンでもあるので、医学における呼吸器内科や予防医学など、関連する分野の専門家との連携も重要となる。

PM2.5の場合など、その成分に関する専門知識や、発生原因となる場所や環境問題などの専門知識も関係してくるのである。



場所や素材の知識と他学問との連携

場所や素材の場合、建物に関する建築の専門知識や建材(素材)に関する専門知識などが必要とされる。


例えば、場所とは広い視野で考えると国や地域により環境や考え方の違いがあり、汚れ方や作業方法にも変化が生じることがある。


焦点を建物に絞り考えるなら、建物の設計による掃除動線や各場所の作りなどの他、生活の中における収納や整理整頓なども関係がある。


素材で考えるなら、使用する素材の選出や素材自体の改善及び開発などにも、研究や専門知識が必要とされるのである。


地域で考えるなら、環境問題も専門知識が必要とされるだろう。



その他の掃除理論との連携

その他、物理的除去力や化学的除去力、作業方法や予防方法など、関わる知識はとても多くあると言える。


そして、各専門知識にはそれぞれの関係する学問領域がある。


掃除学を軸に、そのほかの専門知識が関わることで、今まで仕方ないと諦めていた掃除問題も、改善していく可能性を秘めているのである。


例を挙げるなら、掃除と健康で考えても、医学関連だけでも予防医学・臨床医学・保健学・その他など多くある。


また、公衆衛生学、環境衛生学・建築学、材料工学、ロボット工学、環境学、経済学、自然科学、心理学、教育学、などなど、関連する学問は無数にあるといえ、新しい学問である掃除学が加わることで、今までにない新たな研究課題も生まれるのではないだろうか。


その研究成果は、人々の暮らしを、より快適で健康的なものにしてくれるだけでなく、経済的にも環境的にも良い社会を実現できるものと感じている。




世界を変える掃除学

掃除学という新しい学問は、世界を変える力を秘めていると言える。

世界中の人が行う、最も身近な行為である掃除。

そこには、確実に掃除問題が存在する。


長い歴史の中で、古くから行われている行為であるのに、その理論は今までまとめきれていなかった現状があるのである。


そして、世界とは様々な国の人々であったり、様々な業界や学問領域であったり、もちろん掃除業界を含め、関わる全ての世界に当てはまる。


掃除理論を集約した掃除学は、世界を変え新たな未来を作る可能性を秘めた学問なのである。





著者:植木照夫(クリーンプロデューサーベスト株式会社 代表取締役、掃除学研究所所長)

植木照夫の掃除学研究所

掃除学研究所は、植木照夫により発案された、掃除理論の集約的公式「掃除の方程式(うえきの方程式)」と「掃除がラクになる法則(うえきの法則)」を基に、幅広く関連知識をまとめた新しい学問の研究サイトです。