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3—2:掃除学とアレルギー
掃除学でアレルギー問題を考える
掃除と健康を考えた時、近年の室内の空気環境悪化に関連する、様々な疾患者の増加を改善するためにも、掃除学は重要な役割を果たす。
その一例として、様々な病気と関連性もある、吸入性のアレルギー問題について、掃除学の視点から改善対策を考えていく。
*動画でご覧になりたい方はこちら↓(一部内容が異なります)
アレルギーとは
ウィキペディアによると、【アレルギー(独 Allergie)とは、免疫反応が、特定の抗原に対して過剰に起こることをいう。免疫反応は、外来の異物を抗原と呼んでいるが、それを排除するために働く、生体にとって不可欠な生理機能であるとされている。
詳細については、インターネットや書籍など、多くの情報が発信されているので、ここでは、その先に進みたいと思う。
アレルギーの現状
世界的に増え続けている? アレルギー
世界アレルギー組織WAOの2011-2012年統計によると、世界的(先進国と途上国の両方)にアレルギー疾患の有病率が上昇しており、世界の被験者(ひけんしゃ)は数億人にのぼり、鼻炎に苦しむ等は3億人と推定されている。
(WAO英文:White Book on Allergy 2011-2012 Executive Summary)
アレルギー患者は日本人の2人に1人!
日本におけるアレルギーの現状を、知っている人はどのくらいいるのだろうか?
アレルギー患者は日本人の2人に1人。 (2013年:厚生労働省調べ)
これは、近年3人に1人と言われていた現状から急速に増加している事を示していますまた、この増加の主体はアレルギー性鼻炎(花粉症を含む)と喘息の増加によると考えられている。
花粉症は世界的に、特に先進国において増加している。
通年性アレルギー性鼻炎は、室内アレルゲン(ハウスダスト、ダニ、ペット、真菌など)が主な原因だが、季節性鼻炎アレルギー、特に花粉症は花粉抗原が原因となるため、国内でも地域差が大きい。
スギ花粉症を含むアレルギー性鼻炎は、国民の40%以上が罹患(りかん)していると考えられ、今後も増加することが予想されている。
アレルギーは、食べ物として体内に入る食物アレルギーと、呼吸に伴い体内に入る吸入性アレルギー、その他がある。
その中でも吸入性アレルギーは、アレルギー性鼻炎や皮膚炎、目のかゆみ、他等、その症状は人により個人差がある。
事実、自分や家族など身近で大切な人に、花粉・ホコリ・カビ・ダニ・などに反応する吸入性アレルギーを持つ人も多いのではないだろうか。
私の家族にもおり、それがきっかけで「アレルギー対策と掃除」について研究を始めた。
アレルギーに関する専門家ではないので、本章では掃除の専門家としての視点から話を進めていく。
アレルゲン
アレルゲンとは
アレルゲンとは抗原とも呼ばれ、アレルギーの原因となる物質。花粉・ホコリ・ダニ・真菌・動物の毛など吸入性のもの、蕎麦(そば)・卵・小麦など食物性のもの、うるし・ゴム・金属など接触性のものなどがある。
正確には抗体と反応してアレルギーを引き起こす物質そのものを指しますが、その抗原を含んだ物質を指すことも多い。
アレルゲンが体内に入ってきた時、IgE抗体を作って排除・防御しようとする。
しかし、抗体が体内で増えすぎ、過剰に反応すると、アレルギー反応としての症状が出てくる。
アレルギー原因物質は、掃除で軽減?
住まいに起因する吸入性アレルギー原因物質は、掃除で軽減することが可能とも言える。
アレルギーを引き起こす環境由来抗原を特に「アレルゲン」と呼ぶ。
吸入性アレルギーの場合、花粉・カビ・ダニ・ホコリ・その他などの「アレルゲン」を吸込んだり粘膜等への付着により、アレルギー症状を引き起こすことになる。
つまり、アレルゲンがアレルギー症状を引き起こす原因物質であり、予防対策のポイントは、「アレルゲン」の管理ともいえるのではないだろうか。
では、アレルゲンについて、掃除の方程式を活用して考える。
掃除の方程式でアレルゲンを考える
アレルゲンを、掃除の方程式に置き換え考えてみると・・・まず始めに現状分析の「どんな汚れ・どこに?」ついて考察してみる。
衛生掃除の目的として、「人体に害を及ぼす影響のある汚染物質を生活空間から排除するための掃除」だから、汚れは吸入性アレルギーの原因物質となるアレルゲンを含む、室内における人体に害を及ぼす影響のある空気汚染物質。
どこには、個人衛生の主となる場所として、住まいの室内とする。
アレルゲンを含む空気汚染物質とはどんな汚れ?
場所は室内ということで、方程式の「どんな汚れ」について分析する。
室内における「人体に害を及ぼす影響のある空気汚染物質」について考察する。
近年の日本では、室内における衛生環境の阻害要因として、室外から侵入してくる花粉やPM2.5 、室内より発生するハウスダストを含む浮遊物質等による吸入性アレルギーの症状悪化や、シックハウス症候群の原因の一つとされる、ホルムアルデヒド等の化学物質による空気汚染など、住まいに起因する室内空気の汚染物質が問題視されている。
室内空気汚染のうち、外部から侵入してくる汚染物質と、室内で発生する汚染物質について、もう少し詳しく考える。
外部から侵入してくる汚染物質
PM2.5 とは
人体に害を及ぼす可能性のある、外部から室内に侵入してくる代表的な汚染物質として、近年、大気汚染物質として注目されているPM2.5 。
政府広報オンラインによると、PM2.5 とは、2.5マイクロメートル以下の非常に小さな粒子です。PMは「Particulate Matter:パ(ル)ティィキュゥラァトゥ・マター(粒子状物質)」の頭文字をとった言葉である。
成分は炭素成分、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩のほか、ケイ素、ナトリウム、アルミニウムなどの無機元素などが含まれる。
PM2.5の主な発生源
(1)物の燃焼などによって直接発生
・ボイラーや焼却炉などばい煙を発生する施設
・鉱物の堆積場など粉じん(細かいちり)を発生する施設
・自動車、船舶、航空機
・土壌、海洋、火山の噴煙など自然由来のもの
・喫煙や調理、ストーブの使用など家庭から など
(2)様々な物質の大気中での化学反応によって生成
・火力発電所、工場や事業所、自動車、船舶、航空機などから燃料の燃焼によって排出される硫黄酸化物、窒素酸化物
・溶剤や塗料の使用時や石油取扱施設からの蒸発、森林などから排出される揮発性有機化合物 など
⇒これらのガス状物質が大気中で光やオゾンと反応し、PM2.5が生成される。
PM2.5の健康への影響
PM2.5は粒子の大きさが非常に小さいため、肺の奥深くにまで入り込みやすく、ぜんそくや気管支炎などの呼吸器系疾患や循環器系疾患などのリスクを上昇させると考えられる。
特に呼吸器系や循環器系の病気をもつ人、高齢者や子どもなどは影響を受けやすいと考えられるので、注意が必要である。
PM2.5近年の現状
中国を含む東アジアの国々でも、PM2.5などの大気汚染が問題視されており、日本では大幅に削減されていると言われているが、首都圏における各家庭での現場事情は少し異なる結果であると言える。
例えば、東京都環境局による平成26年1月27日開催された微小粒子状物質(PM2.5)に関する研修会の「東京都の大気環境(PM2.5)の現状と国の暫定指針に対する都の考え方」資料2の中の微小粒子状物質(PM2.5)の経年変化を見ても、この10年間で濃度55%減少したとなっており、数値的には大幅に減少している。
しかし、東京都内のハウスクリーニングを行っている私は知っている。
多くの家庭で必ずと言って良いほど、自然吸気口やその周辺および、居室換気扇のフィルターは、黒っぽい汚れで汚染されている現状がある。
これらの汚れは室内に確実に侵入しており、気密化された室内では換気や掃除をしないと、半永久的に浮遊しているものもあると言える。
室内で発生する汚染物質
室内で発生する人体に害を及ぼす可能性のある空気汚染物質例として、シックハウスに代表される化学物質とハウスダストについて考える。
シックハウス症候群
厚生労働省によると、シックハウス症候群とは
近年、住宅の高気密化などが進むに従って、建材等から発生する化学物質などによる室内空気汚染等と、それによる健康影響が指摘され、「シックハウス症候群」と呼ばれている。
その症状は、目がチカチカする、鼻水、のどの乾燥、吐き気、頭痛、湿疹など人によってさまざまである。
シックハウス症候群の原因
住宅の高気密化・高断熱化などが進み、建物の建設や家具製造の際に利用される接着剤や塗料などに含まれるホルムアルデヒドやVOCなどの揮発性(きはつせい)有機化合物など化学物質による空気汚染が起こりやすくなっているほか、湿度が高いと細菌、カビ、ダニが繁殖しやすくなります。
それだけではなく、一般的な石油ストーブやガスストーブからも一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物などの汚染物質が放出される。
たばこの煙にも有害な化学物質が含まれています。
シックハウス症候群は、それらが原因で起こる症状である。
人に与える影響は個人差が大きく、同じ部屋にいるのに、まったく影響を受けない人もいれば、敏感に反応してしまう人もいる。
ハウスダストとは
ハウスダストはホコリ汚れとも呼ばれ、歩行や窓あけ等により空気中に飛散しやすく、時間の経過とともに徐々に沈降し、家具や床面等の上に堆積していく。
目に見える主な成分は繊維などの摩耗人が多いが、目には見えない微細な粒子も多く浮遊している。
浮遊時間は質量が軽いほど長く、半永久的に浮遊している物もある。
ハウスダストの種類と大きさ
ハウスダストの種類と大きさを表にしてみると、目に見える大きさは人それぞれ異なるとしても、0.1mm前後くらいとして、それ以下の微細な汚染物質の方がはるかに種類は多いのがわかる。
ピンク色で示している物質は、アレルゲンや細菌およびウイルスの大きさである。
室内で発生するホコリの中には、PM2.5となる2.5マイクロメートル以下の粒子も含まれている。
室内空気汚染物質のまとめ
室内空気汚染により罹患(りかん)する可能性のある病気として、
吸入性のアレルギーによるアレルギー性鼻炎や皮膚炎、目のかゆみ、等の他、
シックハウスやPM2.5による、ぜんそくや気管支炎などの呼吸器系疾患や循環器系疾患などのリスクを上昇させると考えられる。
また、真菌や担子菌のトリコスポロンが要因とされる夏型過敏性肺炎などもある。
これらの病気の原因となる、室内空気汚染物質は、ハウスダストとして、化学繊維の摩耗人、カビ、ダニ、細菌、ウイルス、花粉、その他などがあり、
化学物質としてホルムアルデヒドやVOCなどの揮発性(きはつせい)有機化合物、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物、炭素成分、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、ケイ素、ナトリウム、アルミニウムなども健康阻害物質と言える。
つまり、吸入性のアレルゲンとは、ハウスダストだけでなく、シックハウス症候群の原因物質やPM2.5などの化学物質を含む複合的な汚染物質であり、これらは、呼吸に伴い体内に取り込まれる。
したがって、関連する様々な疾患の原因物質は、物質単体で考えるのではなく、複合的な汚染物質であり、予防対策は全体的なものでなくてはならないと言える。
予防対策
掃除の方程式の予防の知識で考えると、住まい方の改善と住まい自体の改善が必要となる。
シックハウス対策
厚生労働省が推進する、シックハウス症候群の主な防止対策として、
●カビ・ダニ対策における住まい方の改善
対策としては、住宅環境、日常生活でカビ・ダニ発生の原因と思われる点を改善し、換気や掃除等により、効果的なカビ・ダニ対策を講じる必要がある。
●化学物質対策における住まい自体の改善
リフォームなどの前に、工務店や設計者と十分な話し合いを行い、自分の希望をしっかり伝えて材料選びを行うことが大切である。
本来は、掃除の国家資格や建築物環境衛生管理の資格も持つ、「個人衛生掃除の専門家」が窓口として間に入るのが理想だが、現時点で現場を熟知し、掃除学を理解して、総合的な提案をできる専門家は、私だけではないだろうか。
アレルギー対策
厚生労働省(厚生科学審議会疾病対策部会)の、H17年10月「リウマチ・アレルギー対策委員会報告書」では、「アレルギー疾患者自己管理手法の確立」は急務で、最優先研究目標においても・自宅で実施可能な環境中抗原調整手法の開発などが挙げられていた。
また、H23年8月の報告書では、抗原回避等の生活環境や生活習慣の改善、その他等について自ら習得し管理することで、QOL*の向上を図ることができる。そのため、厚生労働省においては、患者の自己管理マニュアル等の作成・普及に努めてきたが、現時点では必ずしもこういった内容を踏まえた適切な疾患管理が患者自身によって十分に行われておらず、その普及の在り方には課題を残している。とある。
ちなみに*QOLとはクオリティーオブライフの略。病気だからといって、生活の質を落さず向上できるような対策が求められているということである。
これらのことからも、我が国のアレルギー対策において、「住まい方や掃除方法の提案」は「自宅で実施可能な環境中抗原調整手法」であり、「住環境等に関する抗原回避」に有効な手段の一つと言える。
つまり、吸入性アレルギーのうち「住まいに起因する吸入性アレルゲン」は、掃除により軽減する事が出来るのである。
これは、室内空気汚染が要因とされる、シックハウスを含む、すべての罹患(りかん)予防となり、掃除学は予防医学と言える根拠の1つでもある。
H17年に提案された「住環境等に関する抗原回避」における「自宅で実施可能な環境中抗原調整手法」や「患者の自己管理マニュアル等の作成・普及」が、提案から10年以上経過した現在も思うような改善がみられないのは、建築物環境衛生管理や掃除の専門家が参加していない事も大きな要因といえるのではないだろうか?
また、建築物環境衛生管理や掃除の国家資格を取得し、掃除現場の実務経験も豊富で、その方面から住まいの個人衛生としてアレルギー対策を研究している専門家が、私以外いるのか疑問も感じるほど、表舞台に出ていないのが現状である。
掃除学とアレルギー
個人的意見となるが、私ならこう考える。
住まいに起因する吸入性アレルギーの抗原を回避・除去・改善するための掃除を行うことを提案する。
そして、住まい方だけでなく住まい自体を長期にわたり維持管理しやすいように、また患者のQOL*向上が図れるようなアレルギー対策として、「住まいを汚れにくく・掃除がラクな家」にすることが求められていると感じる。
それは、家事もラクになり、家の寿命も延び、お掃除=健康=エコロジーともなるのである。
治療のために特別な事をするのではなく、対策を持続出来るように「ラクに行うための対策をする」と言う事ですが大切と言える。
それらを取り入れて、患者の自己管理マニュアル等の作成・普及を行うと、今までよりも良い結果につながるのではないだろうか?
そのためにも、私の提唱する掃除学は大きな役割を果たすのである。
掃除の本来の目的は、人体に害を及ぼす可能性のある汚染物質を、生活空間から除去することにある。
しかし、汚れの中で最も厄介なのは、見えない汚れでもある。
これは、ウイルスや細菌などにも言えることで、見えないからこそ、人々の意識から汚れの存在を消し、予防対策もしにくいといえる。
これは、医学でいう、目に見えない病気の原因のように、見えないからこそ予防しなければならない。
その点においても、見えない汚れの予防は重要であり、予防医学にとっても重要な要素でもある。
具体的な対策案は、住まい方の改善として、「住まいのお掃除マニュアル」
住まい自体の改善として、「健康住宅掃除がラクな家の構想案」にて紹介している。
掃除学は未来の健康を変える
掃除学という言葉は他でも使われているが、私の提唱する掃除学は、家事の一部としてではなく、衛生掃除を含む、健康や経済活性など幅広い学問である。
その掃除学は未来の健康を変える可能性を大いに秘めている。
アレルギー・シックハウス症候群・喘息・アトピー・慢性鼻炎・その他の病気に対する可能性だけでなく、学問としても予防医学・臨床環境医学・公衆衛生学、建築衛生学、経済学などにも貢献する、無限の可能性を秘めた新しい学問としての潜在能力をも持ち合わせているのである。
掃除学関連知識の第4章「掃除と経済」 について解説したいと思う。
著者:植木照夫(クリーンプロデューサー、ベスト株式会社 代表取締役、掃除学研究所所長)
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