第5章:どのように?:除去力活用法・「作業方法の知識」〜 掃除の方程式(作業方法決定)〜

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掃除作業を考える際、掃除の方程式の簡略図で見ると、現状分析が終わり、分析結果を考慮して、作業方を決める際の、「どのように?」・・すなわち、選定した除去力の活用法として「作業方法の知識」について考える。




*動画でご覧になりたい方はこちら↓(一部内容が異なります2016年公開)



作業方法の基礎知識項目

どのように掃除作業を行うのか?

全体の情報をまとめて、効率的な掃除方法を決めることになる。この時、作業方法の知識があると、掃除方法を決定しやすくなる。


作業方法の基礎知識としては、

1. 何を重視して作業を決定する?「掃除の付加条件」
2. どのように作業するのか(作業内容)?「作業方法決定手順」

などがある。



1. 何を重視して作業を決定する?
「掃除の付加条件」

誰もまとめきれなかった掃除理論において、作業方法決定の際に「掃除の付加条件」を取り入れたことは、植木照夫の掃除学の特徴でもあり、個人衛生として、また現場対応理論として、最も重要な項目の一つでもある。


効率よく掃除を行うためには、作業内容や手順など、除去力(物理的な力と化学的な力)を効果的に活用するための、作業方法の知識が必要とされる。

作業方法を決めるには、「どこに、どのような汚れが付着しているのか?」を分析した結果を基に、「用具や洗剤」などの除去力の選定を行い、それを「どのように?」活用できるか作業内容を決定する必要がある。

また、掃除後の予防に付いても考える事で、頑固汚れの再付着を軽減させ、キレイを長持ちさせる事が出来る。


しかし、そもそも、性格やキレイに対する感じ方は人それぞれ異なり、掃除する物や場所への 「思い」 などの感情も異なる。

その他、ライフスタイルや経済的な理由など、様々な重視すべき 「付加条件」 により、掃除の作業方法も変化する。

これは、個人衛生や作業におけるクライアントなど、個々の事情を補うためにも重要なことであり、掃除を行う要点でもあり満足感につながることでもある。


もちろん掃除なので、作業をすることで新品の時のような状態に仕上がることはほとんどない。


そうした付加条件を満たす為には、方程式のどの知識に影響を及ぼすかなどを理解し、仕上がりの 「質」 をイメージすることが大切である。

それらを基に、全体の作業を考えると、効率的な掃除方法を決定することができる。






掃除の方程式と代表的な付加条件例

付加条件とは、個人や組織など個々の事情が関わってくるため、その数は掃除案件の数だけ存在するとも言える。付加条件を説明するにあたり、掃除の方程式と代表的な付加条件例として、次に記す。


素材の知識で起こりうる付加条件の例

思い出の品や大切な物や高価な物・壊れやすい物なので「傷つけたくない」等の場合は、それらを重視した作業方法を考えなければならない。

その際には、化学的及び物理的な除去力としての洗剤や用具の選択も弱い除去力を組み合わせ、力加減なども含めた汚れ除去する作業方法を考えるなど、素材自体を傷めない事を最優先にした掃除方法となる。


汚れの知識で起こりうる付加条件の例

キッチンの頑固な油汚れや風呂場の頑固な水垢汚れ等、「汚れをしっかり落としたい」と言う希望がある場合、多少素材に傷がついても汚れ除去を最優先とし、強い除去力を使用する作業方法を考える事もある。


用具の知識で起こりうる付加条件の例

試してみたい掃除用具がある等の場合、あらかじめ「物理的除去力の一つが決まっている」事になる。また、ハウスダストアレルギーなどの場合、ホコリが舞わないよう水拭きする等「健康被害」に配慮した用具選択と作業方法を考える事もある。


洗剤の知識で起こりうる付加条件の例

アトピーやシックハウス症候群など、建物利用者の「健康被害」を重視する場合、洗剤成分や化学薬品の使用制限などを最優先に考えた作業方法となる場合もある。


作業の知識で起こりうる付加条件の例

夜遅いので「大きな音を出せない」や、マンションなどの場合、管理組合の規約によりバルコニーで「多くの水を流さないでほしい」等の条件物件もあり、作業音や水の使用に制限のある作業方法となる。


予防の知識で起こりうる付加条件の例

仕事が忙しくなかなか掃除ができないので「汚れにくく掃除をラクにしたい」場合や、バルコニーの鳩のフンの掃除と再汚染を防ぐ為に「鳩の侵入を防いでほしい」等、掃除後の予防を重視した作業方法が求められる事もある。


その他で起こりうる付加条件の例

「経済的(金銭的)」な条件や「環境的」な条件など、様々な付加条件が生まれる事があり、それらも考慮して作業方法を決定する事が望ましい。



掃除作業における仕上がりの質のイメージ

付加条件では、掃除作業における仕上がりの質についても考慮することが大切と言える。


掃除とは、様々なものの使用や経過に伴うメンテナンス行為でもあり、掃除を行う事で新品になるわけではなく、こだわりだしたらきりがないほど、多くの時間と労働力を要する場合もある。

自分で行う掃除なら、その都度考えるのも良いが、最初にどの程度のキレイを求めるのかを確認しておくことで、作業手順を決める際に、効率が良くなると言える。

どこまでこだわるのか?を決めることで、作業内容にも変化が生じるからである。


例えば床掃除を行う際、ある程度の仕上がりで納得できるのであれば、掃除機をさっとかけるだけでも良いが、こだわるのであれば、掃除機を丁寧にかけた後、モップによる水拭きや、洗剤を使用した部分洗浄作業などを加えることになる。


仕上がりの質を決める際には、その他の付加条件との関係性も考慮して、仕上がり目標を決めておくことが、掃除の満足度につながる大切な要素と言える。

質の判断が、自分でなく他人(依頼者)の場合は、判断基準は依頼者となるので、丁寧なヒアリングを行うことで、相互のイメージを共有し、掃除作業の内容を決めることが望ましい。 



2. どのように作業するのか?
作業方法決定手順

作業方法を決定する際、「掃除の付加条件」を考慮しつつ、どんな汚れなのか?汚れが付着している場所はどこなのか?など、現状分析の結果をもとに作業手順を決めていく。


場所でいうなら、キッイン・居室・風呂場・洗面・トイレ・・・天井・壁面・床?、その素材は平又は凹凸面?木・プラスチック・ステンレス・陶器・壁紙・・・水・洗剤の使用は出来る?等々、現状分析で調べた内容に適した用具や洗剤を選び、作業手順等の知識を組み合わせて掃除方法を考える。


例えば、「レンジフードフィルターの頑固な油汚れに化学的な除去力(洗剤など)を活用する場合、フィルターを取外し汚れに洗剤を浸けてしばらく放置する事で、洗剤成分が汚れを分解する時間となり、頑固な汚れも弱い物理的除去力(掃除用具)で除去することができ、結果的で掃除がラクになる。


さらに、放置している時間を利用して次の作業の準備や、居間や浴室の掃除など他の作業を行う事ができ、時間を有効に活用できる。

しかし、「放置時間を誤ると素材に害を与える事もあるので十分な注意が必要である」など、除去力を選定し、作業区分や手順など適切な作業方法により、素材を傷めず効率な掃除を行う事ができる。


また掃除後の素材に、使い捨ての簡易フィルターを装着したり、防汚コーティングをする事で、フィルター本体に汚れがつきにくく、再度付着した汚れをラクに除去できるなどの予防方法もある。

その他、掃除作業において洗剤は、“こすり取る”または“削り取る”などの物理的な力を使用する際に、素材を傷めないよう滑りを良くする等、作業性を高めるときに使用する場合もある。


これらの複合的な作業を考える際、次のような手順で考えると効率的に作業方法を決める事ができる。

(1)「作業区分により作業内容を決める」→
(2)⑴の作業内容に、「掃除の基本的な作業手順」を採り入れ、掃除の全体的な実施方法を組み立てる → 
(3)全体の作業内容に伴う準備・段取りについても考える

*実際に作業を行うときは、(3)全体の作業内容に伴う準備 から始めることになる。



(1) 作業区分により作業内容を決める

「どこに、どのような汚れが付着しているのか?」を分析した結果を基に、作業区分別の特徴や性質を考慮して、除去力(化学的な力と物理的な力)を効果的に活用するための作業内容を決定する。

作業区分としては、建材別・汚れ別・部位別・場所別などに分けることができる。


例えば、建材別で掃除方法を決定するなら「タイルの掃除方法」となり、汚れ別で作業内容を決定するなら「油汚れの掃除方法」など、作業内容を決めるための基準として素材・汚れ・部位・場所別などに区分して考えるとまとめやすくなる。

具体的な掃除方法としては、インターネットなどにより各作業区分の「○○の掃除方法」などで検索すると、様々なサイトで紹介しているので、目的に合った掃除方法を手軽に知ることもできる。


1)素材別で作業方法を決定する(木、鉄、プラスチック、etc)

汚れが付着している「素材の種類」で、作業方法を決定する。この場合、現状分析で行った、素材の知識が重要となる。

掃除作業を行う素材の性質を理解しておく事で、使用出来る洗剤や用具の選定に役立ち、それを基に汚れ除去を考える事が出来る。


例えば、同じ壁紙でもビニールクロスは若干の水や洗剤の使用も可能だが、布素材のクロスは水や洗剤の使用はNGである。

その他、同じステンレス素材でも、表面仕上げの違いにより作業方法も変化する。鏡面仕上げとヘアライン仕上げとでは、作業方法に違いがある。

鏡面仕上げは、傷がつきやすいので化学的な力を上手に使い、物理的力は極力弱い力で、素材に傷がつかないよう作業には細心の注意を払う。

ヘアライン仕上げは、表面に一定方向のラインが施されたデザインであるので、物理的力もラインの方向に沿って作業することで、傷が目立ちにくい傾向がある。ただし、ラインの向きと違う方向に擦るなどの作業を行うと、傷は目立ってしまうので注意が必要とされる。


2)汚れ別で作業方法を決定する(ほこり、油汚れ、カビ、etc)

掃除の対象となる「汚れの種類」で、作業方法を決定する。この場合、現状分析で行った、汚れの知識が重要となる。

掃除作業を行う汚れの性質を理解しておく事で、使用出来る洗剤や用具の選定に役立ち、それを基に汚れ除去を考える事が出来る。


例えば、油汚れと生物による汚染とでは対処方法に大きな違いがある。

油汚れは、汚れが積み重なったかさ高固着物の場合、物理的除去力としてヘラやケレンなどですくいとったり表面を削ったりすることもあるし、化学的除去力として界面活性剤を主とした洗剤を活用することが多い。

生物汚れの場合、化学的除去力として生体の性質を考慮した殺虫剤や、漂白剤による漂白効果及び殺菌効果を活用することもある。


3)部位別で作業方法を決定する(天井、壁、窓、床、etc)

汚れが付着している「部位」で、作業方法を決定する。この場合、現状分析で行った、場所(素材)の知識と汚れの知識が重要となる。

掃除作業を行う素材や汚れを理解し、部位による作業性を考慮する事で、使用出来る洗剤や用具の選定に役立ち、それを基に汚れ除去を考える事が出来る。   


例えば、天井や壁面は重力の関係により、汚れや洗剤等が垂れたり落ちたりする。掃除作業にはそれに対応した予防対策として、洗剤を塗布する際に下から塗布して垂れた時の洗剤反応時間を短くすることで、垂れ後の軽減を行う他、壁面にキッチンペーパーを当ててその上に洗剤を塗布することで湿布のように貼り付け洗剤をつけ置きするなど、垂れない工夫や落ちても再汚染しないための養生等を考える必用がある。

また、目線より高い位置の掃除の場合、踏み台や脚立などの補助用具を活用し、高所作業をしやすくするなど、部位に対応した作業性を考慮することができる。


4)場所別で作業方法を決定する(台所、居間、浴室、トイレ、他)

汚れが付着している「場所」で、作業方法を決定する。この場合、現状分析で行った、場所(素材)の知識と汚れの知識が重要となる。

場所による特有の汚れや使用されている素材などにより、除去力の選出や活用方法決定のヒントとなるべく情報も含まれている。

同じ水周りであっても、風呂場とトイレでは、場所の違いにより付着する汚れや使用されている素材に違いがあり、使用する掃除用具や洗剤なども変化し、それに伴う作業方法があると言える。

また、作業を行う場所により、衛生性等も変わってくる。


例えば、同じ水周りでも風呂場やトイレと違い、キッチン等は食材を扱うため、衛生性が健康被害に直結する可能性が高くなる。

その際、作業を決めるときは菌類の抑制や使用する洗剤の人体影響等、人の健康に対する考慮は他の場所より重要な事となる。


* 予防対策についても考える

予防対策についても考えておくことで、汚れの再汚染を軽減し、次回からの掃除が楽になる。これについては、別章で紹介する。


(2) 掃除の基本的な作業手順

(1)の作業内容に、掃除の基本的な作業手順を採り入れ、全体的な作業の流れと実施方法を組み立てることで、効率よく掃除を行うことができる。

次に紹介する手順は、作業の基本的な目安であり、各住まいの作業環境や状況に応じて個別の対処する事が望ましい。



1)実施の手順 

建物を空間として区分した場合の掃除を行う作業手順としては、2階建て以上の家の場合上階から掃除を行う。ほこりや汚れや水は重力により下に落ちていくため、上階の掃除を先に行うことが望ましい。


空間の大きさで考えた場合、広い所より狭い所での作業はしにくいため、先に作業を行う方が望ましい。進行方向で考えた場合、奥の方から入り口に向けて作業することで、作業後の再汚染を防ぐことになる。建物で考えた場合、屋内から屋外へと作業します。

このようにそれぞれの理由から、効率よく掃除を行うための基本的な実施手順がある。


2)部位別の手順 

住まいを部位別に区分した場合の作業手順としては、上から下へ掃除をすることが基本となる。

ほこりや汚れは下に落ちていくため、作業後の再汚染を防止するためにも上部から掃除を行う。


はじめに天井部分の建材や設備類などの掃除を行い、つぎに壁部分となる建材や扉や窓サッシ・壁面装飾品、及び家具類などの掃除を行い、最後に床面部分の掃除といった作業手順となる。

*注意:壁面への洗剤塗布は、下から上へ。これは、壁面上部から洗剤を塗布すると下に向かって洗剤が垂れていき、上部との洗剤反応時間が変わり、タレ跡が残りやすいので、それを軽減させる意味で行う。特に、除去力の強い洗剤を壁面(垂直面)で使うときは、タレ跡が残らない工夫も必要とされる。


したがって、掃除の基本は上から下へだが、状況に応じて下から上に作業する場合もある。


3)場所別の手順

住まいを場所別に区分した場合の作業手順としては、各場所の衛生性を考慮すると、食事を作る台所の掃除をはじめに行う。

それは、食材などを扱う衛生性を求められる場所に、他の場所の汚れを持ち込まないためでもある。つぎに居室の掃除、浴室の掃除、トイレの掃除の順で行い、最後に玄関の掃除といった作業手順で行うことが望ましい。


4)除去力別の手順

掃除作業に使用する除去力に応じた掃除手順としては、物理的除去力となる掃除用具や化学的除去力となる洗剤など、使用する除去力を優先に作業手順を考えると効率よく進めることもできる。

この時、実施・部位・場所の手順も考慮して、決めることも大切である。


例えばキッチンの掃除を行う場合、はじめに汚れの頻度が高いもので外せるものは外し洗剤(化学的除去力)に漬け置きしている間に、掃除の基本上から下へ掃除をしていくことで、作業時間を短縮できる。

また、掃除機や高圧洗浄機など(物理的除去力)の機械類を使用する場合、機械の準備や作業性を考えると、その機械でできるところを先に作業してしまう方が、効率よく進めることもある。


このように、作業手順を考える際、除去力に応じた手順を考えることで、作業効率がよくなる場合もある。



*その他

このほかにも、汚れの頻度で考えると、重度の汚れから軽度の汚れ掃除や、天気を考慮して外の掃除から始めるなど、状況に応じて効率の良い作業手順を考えていきます。




(4)作業前パッチテスト

作業全体の流れが決まったら、実際に目立たない箇所でテストを行い、用具の使い心地や洗剤の反応確認及び、汚れの落ち具合や作業性などを確認し、最終的な作業方法の決定となる。

その際、汚れの付着している素材が、作業によって傷んでないかなどもチェックする。

こうしたテスト作業を事前に行うことで、作業効率の確認だけでなく、いきなり本作業に入るよりもリスク軽減することができる。

この作業前テストを、パッチテスト*と呼ぶ。

*. パッチテスト(patch test):一般的にはパッチテストというと、アレルギー性疾患の原因物質を調べるための検査をいう。しかしこの場合、直訳で“(作業場所の)一区画でテストする”という意味で、掃除で言うパッチテストとは、作業を始める前に目立たない所でテストをするという意味がある。



3. 作業方法決定手順のまとめ

掃除の方程式を活用して、実際に作業方法を決定するための手順を次に記す。


① 現状分析情報

(ア) 汚れの情報

(イ) 素材の情報


② 除去力の選出

(ア) 用具の選出

(イ) 洗剤の選出


③ 作業方法の決定

(ア) 付加条件

(イ) 準備

(ウ) 作業前パッチテスト

(エ) 作業内容


作業方法決定手順の具体例については、次の章で紹介する。



第6章では、掃除の方程式を使った「汚れ除去の一例」 について解説したいと思う。



著者:植木照夫(クリーンプロデューサーベスト株式会社 代表取締役、掃除学研究所所長)

植木照夫の掃除学研究所

掃除学研究所は、植木照夫により発案された、掃除理論の集約的公式「掃除の方程式(うえきの方程式)」と「掃除がラクになる法則(うえきの法則)」を基に、幅広く関連知識をまとめた新しい学問の研究サイトです。