第3章:どこに?「場所・素材の知識」 〜掃除の方程式(現状分析)〜

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「掃除学」第3章は、掃除の基礎理論として、「掃除の方程式」 、「どこに?:場所・素材の知識」 について解説する。


掃除の方程式とは、掃除方法決定のための公式である。


掃除方法決定=現状分析×作業法

掃除方法=(どこに?+どんな汚れ?)×(なにを使って?+どのように?)

掃除方法=(汚れの情報+場所・素材の情報)×(除去力+活用法)+予防


そして、はじめに行うことが、現状の分析。


では、現状分析として、場所・素材ついて考えてみよう。




*動画でご覧になりたい方はこちら↓(一部内容が異なります2016年公開)



どこに?とは

「どこに?」とは、汚れが付着している素材(建材)だけでなく、対象となる建物が建つ「地域」や「立地条件」や「建物の場所や部位」等、様々な角度から考える事が必要とされる事も多く、広義の意味合いを持つものである。


一般的に考える場合、住まいの汚れは床や壁や家具などの素材(建材)に付着している。

掃除をする際、汚れが付着している場所や素材の種類・化学的性質および物理的性質など、掃除に必要な素材の知識が求められる。


素材に傷がつくと、見た目だけでなく素材自体の劣化につながるほか、素材表面に凹凸ができ汚れも再付着しやすくなる。

汚れを除去するとき、素材のことを知ることで、汚れを落としやすくなり、

素材へのダメージも軽減できるのである。



掃除の方程式の簡略図で、「どこに?」について現状分析していく。




場所や素材の分析手順

 基本事項としては、「場所の情報」、「素材の種類と使用部位」、「耐水性・耐洗剤性」、「表面形状や硬度」・「吸水性・吸湿性」などについて調べる。


(1)掃除対象となる「場所の情報」を分析

(2)素材の「種類と使用部位」を分析

(3)素材の「耐水性・耐洗剤性」など化学的性質を分析

(4)素材の「表面形状や硬度」、「吸水性・吸湿性」など物理的性質を分析


*掃除の方程式詳細図「どこに?」


(1)掃除対象となる「場所の情報」を分析

まずは、掃除の対象となる 場所の情報について考えてみよう。

汚れ付着のプロセスがわかりやすくなる。


掃除対象とする場所は、建物の室外なのか室内なのか、さらにその中のどこを掃除するのか?

場所について調べていくと、付着している汚れについてわかることもある。


例えば、「キッチンのガスレンジという場所に付着している汚れは、調理に伴う跳ねた油やこぼれた食材の一部などが、焦げたり積みかさなったりした汚れ」など、場所の情報から汚れ付着のプロセスや種類を予想できる。


また、掃除場所の地域や周辺情報など、視野を広げていくと、その情報量は多くなる。

北海道から沖縄まで、日本は地域により気候も違う。

また、市街地なのか自然環境が多いのか? 近くに海や川がある? 交通量の多い幹線道路が近くにある? など、周辺状況により外気の汚れに変化が生じる。

住まいの場合、住まい方による違いも出てくるのである。


例えば、目の前に交通量の多い大通りがあり、バルコニーや自然給排気口に排気ガスによる黒いスス汚れが付着しやすい環境や、室内にカビが生えやすい原因を調査しているうちに、建物の周辺には川があり海抜0mなどの低地であったため、湿気が多くカビが発育しやすい環境が整いやすいほか、建物の床下を覗いてみるとベタ基礎でなく直接土間になっているため湿気が室内に侵入しやすいなど、建物の構造も含む場所と汚れの関係はとても重要であると言える。


はじめは、汚れが付着している素材は、どんな場所にあるのか? など、

目に見える身近な情報から集めるとわかりやすい。

掃除対象となる場所が特定できている場合、どこに? その知識として、掃除方法を調べることもできる。


住まいの場所で例を挙げると、キッチン・バスルーム・トイレ・バルコニーなど、掃除対象となる場所がわかれば、その掃除方法について本やインターネットで調べることもできる。


(2)素材の「種類と使用部位」を分析

同じ場所であっても、汚れの付着している素材の違いにより掃除方法も変化する。したがって、素材について調べることはとても重要な事と言える。


近年、製品や建築に使用される、素材の種類も多様化・複雑化しており、一見しただけでは、判断を誤る素材もあるので、注意が必要である。

また、材質を知る前提として、使用されている部位について確認しておくことが求められる。

使用部位の確認については、同じ素材に同じ汚れが付着しても、床や壁や天井など素材(建材)の使用されている場所によって、洗剤や用具や作業方法などが異なる。

したがって、素材の部位についても確認する必要がある。


★例えば・・・素材の種類によっては、使用できない洗剤や用具などがあるため、汚れが付着している素材の種類を確認することは重要なこととなる。


その他、汚れ除去に、床面で液体の洗剤を使用する場合はとくに問題なくても、壁面や天井で使う場合、洗剤が下へたれてしまうため泡状の洗剤を使用したり、他の部分が汚れないように養生をするなど、各素材の使用部位によって作業方法に変化が生じる。


さらに、壁面上部や天井などは高所の作業となるため、高所作業のための用具の準備や安全について配慮するなど、除去作業を行う際に、汚れがどこに付着しているのか素材の使用部位についても確認する事は大切である。



(3)素材の「耐水性・耐洗剤性」など化学的性質を分析

汚れが付着している材質を知るうえで最も重要なポイントは、素材の耐水性・耐洗剤性といった化学的性質である。

汚れ除去を行う際に、水や洗剤を使用する事が多く、もっとも身近で知っておくべき知識である。


基本的に水になじむ(親水性)素材なのか、それとも水をはじく(親油性)素材なのかは確認する必要がある。


その他の化学的性質として、静電気を帯びやすい素材なのかなども、掃除をするうえで知っておきたい性質である。この化学的性質が明確になると次のような事が解る。

水になじむ(親水性)素材なのか、それとも水をはじく(親油性)素材なのか意外にも、素材と洗剤の相性など耐洗剤性を知らないと、素材を溶かしたり変色するなどの損傷を招いたりもするので、素材の耐洗剤性についても調べることは、作業に伴うリスクも軽減できると言える。

便利な時代なので、インターネットなどを活用して調べると、探している情報も見つけやすいと思う。


★例えば・・・コンクリートやモルタルなどに強酸性の洗剤を使用すると、液が付着した部分の素材は化学反応により溶けてしまう。

また、プラスチック系の素材に、シンナーなどの溶剤を使用すると、溶剤が付着した部分の素材は、時間の経過と共に化学反応により表面が溶けてしまうことがある。


(4)素材の「表面形状や硬度」、「吸水性・吸湿性」など物理的性質を分析

汚れが付着している材質を知るうえで、素材の表面形状や硬度、吸水性・吸湿性といった物的性質を知ることも大切である。

汚れを除去するうえで、素材の物理的性質は作業方法に影響を及ぼし、同じ洗剤を用いても素材を傷めたり、汚れを拡散したりする事になる。


例えば、素材表面に凹凸が多いものは作業しにくく、柔らかく弱い素材は傷がつきやすい。また、吸水性のある素材に水分を含んだ汚れが、内部に浸透して除去が困難になるなど、素材の物理的性質によって掃除の方法は大きく変わる。



1) 表面形状や硬度を調べる

素材の表面が平滑・密であれば、汚れは付着しにくく、付着しても除去しやすいが、素材表面に凹凸や隙間が多ければ、汚れは付着しやすいし、付着した汚れを除去するにも、負担は多くなる。

また、素材の硬度によっても、使用できる除去力や活用に伴う力加減など、作業方法を決める際に、必要な情報と言える。

表面形状

素材を近づいてよく見たり、顕微鏡で見てみるとその表面は様々な形状をしており、単に表面の“粗さ”という観念だけではかたづけられず、“凹凸の頻度”とともに“凹凸の形状”も問題となる。

なお、凹凸の程度が同じであっても、その突起やくぼみの形が鋭く、複雑な物ほど汚れがつきやすく、しかも付着した汚れは除去しにくい。


素材の硬度

さらに、表面の形状だけでなく、素材の硬度について調べる事も掃除方法を決定するうえで重要な事である。素材自体が軟らかいのと、硬いのとでは作業方法にも違いが出てくる。

柔らかい素材に付着力が強く硬い汚れが付着した場合、汚れを研磨したり削ると言った物理的な強い除去力を使う際には、素材が傷つく可能性が高いのでリスクを伴う掃除になると言える。


住まいの素材で例えると、壁紙に硬く頑固な汚れが付着した場合、壁紙は柔らかい素材なので物理的に強い力を加えると、傷ついたり破れたりする事もある。


2) 吸水性・吸湿性を調べる・・・物理的性質

素材に吸水性や吸湿性があると、水分と一緒に汚れが内部に浸透しやすく、除去が困難なものとなる。

そのため、水や洗剤などの使用には十分な注意が必要とされる。

また、素材が多孔質のものや海綿状のものは、素材そのものとしては吸水性でなくとも、毛管現象*1により水に溶けた汚れを吸い込みやすい*2


*1 毛管現象とは、細い管状物体の内側の液体が管の中を上昇(場合によっては下降)する現象である。

*2 多孔質のものや海綿状の素材は、毛管作用によって水分を捕らえることの出来る隙間(孔隙:こうげき)をもっており、毛管孔隙の多少によって、水分を捕まえる能力の大小がわかる。調湿効果のある建材などは、このような性質を利用して湿度をコントロールしているものが主流となる。


★ 例を挙げると、画像は、壁面に使用される素材(建材)の一種で珪藻土である。表面を顕微鏡で見てみると、目には見えないほどの、小さな凹凸が多くある多孔質であるため吸湿性がある。調湿効果のある建材には、多孔質や海綿状など、素材表面に小さな凹凸が多くあるものが主流となる。



〜 追記 〜

素材の種類や表面仕上げなどの複合使用について

素材については、建物に使用されているものだけでもその数はとても多い。

家電や家具や日用品を含めると、その数はもっと多くなる。

汚れは、使用していなくても、密閉されていない限り時間の経過とともに付着していく。

そして、厳密に言えば素材の数だけ掃除方法も変化してくると言える。


例えば、キッチンのシンクなどにも使用されるステンレス素材。

ステンレスは、種類や品番などにより微妙な違いがある。

硬さの違いや、仕上げの違いによる表面形状などがある。

表面形状で言えば、鏡面仕上げ・ヘアライン仕上げ・エンボス仕上げなど、さまざまな形状がある。

鏡面仕上げのように凹凸のない平滑密なものもあれば、ヘアラインと呼ばれる一定方向にラインが入っている仕上げもある。

当然、掃除の作業方法にも変化があり、ヘアラインはラインに沿った物理的除去力の活用が求められ、素材にあった作業方法を意識しないと、素材を傷める原因となる。

また、同じシンクであっても仕上げの複合や素材の複合など、様々なパターンがあり、それぞれメリットなどの目的があって使用されている。

例えば、同じシンクであっても、傷がつきやすい底面に傷の目立ちにくいエンボス仕上げを使用し、側面にはヘアラインを使用し、シンクとカウンターのふちの部分に輝きを持たせるデザインラインとして鏡面仕上げを使用や、シンクはステンレスだけどカウンターは人工大理石を使用してメンテナンス性やデザイン性を向上させるなど、仕上げの違うステンレスやその他の素材を組み合わせることで、目的やデザイン的個性を演出することもできる。

当然、仕上げや素材の違いにより掃除方法も変わってくるのだが、そこまでのこだわりや違いの認知度的にも、掃除方法を細かく変える人は少ないとも言える。

その他、窓ガラスなども、近年では耐震性を考慮しているものは、振動を吸収するために若干硬度が低いものもある。

それを知らないと、通常の窓ガラスで使用しても平気な鋭利で硬い物理的除去力(ガラス用のカッターの刃などの掃除用具)を使用すると、ガラスに傷がつくこともある。

これは、浴室の鏡などに使用されている曇り止めのコーティングなども同じである。

鏡の素材自体は硬度が高くても、その上のコーティング素材は硬度が低く柔らかいからである。


掃除のプロの世界では、カッターの刃を活用して、ガラス表面についたかさ高固着物(シールやその跡のノリ・凸状態の汚れなど)や水アカなどの硬い汚れを除去することもあるが、硬度の低い(柔らかい)ガラスやコーティングやフィルムなど表面に加工がしてあるガラスや鏡などに使用して傷がつき、新品への交換を要求されることもある。

しかし、一見しただけでは判断も難しく、その場合、知識と経験で補うこととなる。


素材の性質を見極めることは、その数の多さから、とても難しく、使用素材のメーカーや品番がわからない限り、正確な情報を得ることができず、作業は弱い除去力を目立たない箇所で試しながら、慎重に行うことが求められると言える。


メンテナンスに対する予防としては、建物や商品に使用されている素材の情報やその説明書についても、所有者や実際掃除を行う作業者に伝わる仕組み作りが重要であると言える。


また、場所や環境に応じて掃除をしやすい素材や掃除がラクになる工夫を取り入れることで、今までよりも掃除・メンテナンスを ラクにすることもできる。

掃除学の本質でもある予防については、後に紹介したいと思う。




第4章では、除去力 4-1「なにを使って?」 用具の知識 について解説したいと思う。


著者:植木照夫(クリーンプロデューサーベスト株式会社 代表取締役、掃除学研究所所長)

植木照夫の掃除学研究所

掃除学研究所は、植木照夫により発案された、掃除理論の集約的公式「掃除の方程式(うえきの方程式)」と「掃除がラクになる法則(うえきの法則)」を基に、幅広く関連知識をまとめた新しい学問の研究サイトです。