カビ被害調査 ケース1

公証役場確定日付印取得済み


住まいの掃除方法については、「住まいの健康★掃除マニュアル(掃除方法)」参照ください。




カビ被害と賃貸住宅トラブル案件

2011/10/20 当社(ベスト株式会社:建築物清掃業)に相談の問い合わせがきた。依頼者は大手不動産仲介業者からで、「戸建の入居者の方からカビの件でお問い合わせをいただきました。

押し入れの中板や靴やタオルにカビが生えてしまいます。1度診ていただけないでしょうか?」ということだった。


折り返し連絡をして状況を詳しく聞いてみると・・・


時系列経緯

① (居住者)

入居後、しばらくしてカビ被害に悩まされる。カビの繁殖状況を異常に感じて、設計および建物自体に問題が有ると主張。カビ被害の対応を仲介業者を通じて大家に求める。


② (仲介業者)

入居者からの申し出を大家に報告する。


③ (大家)

今までにそんな事例はなく(自分が住んでいたときやその後の借主からも)、居住者の住まい方に問題が有ると主張。換気をよく行うなど住まい方に注意するように施す。


④ (仲介業者)

大家からの主張を、柔らかく「換気に注意して生活」してみることを伝える。(問題を大きくしないためにも、住まい方に問題が有るとは言っていない。)


⑤ (居住者)

1年近く、言われた通りに換気にきおつけて生活してみるが、カビ被害は収まらず、室内の湿度を計測して記録しているほか(平均湿度70度以上と主張している)、換気にも限界があり防犯上外出時や就寝時に窓を開ける訳にもいかないし、冬場は特に窓などあけられない。


⑥(居住者)

1年近くカビ被害による制限された生活?(嫌な思い)を求められたせいなのか、居住者の怒りは収まらないらしい。


⑦ (仲介業者から当社へ問い合わせ)

借主(居住者)と大家の主張の違いに悩み、専門業者へ相談をすることにした。




現地視察前の資料を求める

現地の視察前に、物件の情報などを不動産仲介業者に求めた所、物件情報の他に居住者が撮影したカビ被害の写真も貼付してくれた。

物件情報や間取り資料を見る限り、築年数も17年程度でそれほど古い物件ではなく、間取りもごく一般的である。

しかし、居住者からのカビ被害の写真はひどい状況で、玄関に置いてあったという履物(サンダル)やキッチン収納の調味料などにカビが大繁殖しているものだった。

さらに、温湿度計の写真では、平成23年10月現在のリビングで温度24℃湿度74%であった。

カビの発育条件は、温度:5℃~35℃で生育する。

なかでも25℃~38℃位が活発に繁殖するカビの種類が多い。湿度:通常のカビは湿度が70~90%位を好むが、好乾性のカビだと65%以下でも発育する種もある。

これらをふまえると、カビの繁殖しやすい好条件と言える。

何かが気になるので、住まいの外観や立地条件が診たく、Google Mapで調べてみた所、すぐ近くに川が流れており、隣の家の外壁の汚れ方なども注目した。

現地調査をしてみないとわからないが、いろいろ問題有りそうだ。


依頼背景などを聞く限り、表面のカビを除去すれば終わりという状況では無いようである。本当はきちんとした調査を行うべきと思うが、複雑な関係事情も有り、まずは現地の状況を見てほしいとの依頼を受けた。

現地視察の前に物件情報をいただきたく、その旨伝えると快く協力していただいた。



物件の資料を見る限りでは、築年数もそれほど古い訳ではないし、方位も悪くはない。

しかし、居住者が怒っている訳が必ず有ると思う。

住まい方の問題は近年建築業界でもよく言われるが、それは近年の高断熱高機密住宅における問題が多く、この物件はどうか気になる所でもある。



居住者が最近撮影したという写真に注目した。カビ被害の状況が異常に感じたのである。間取り図を見る限り、北側の被害写真家と思いきや、南西側であった。

その割にカビの出方がひどく、換気に注意していたにもかかわらずこれだけのカビ被害に驚いた。さらに、写真の中にある湿度計が70度を超えているのにも注目したからだ。





カビの発育条件

温度:5℃~35℃で生育する。なかでも25℃~38℃位が活発に繁殖するカビの種類が多い。

湿度:通常のカビは湿度が70~90%位を好むが、好乾性のカビだと65%以下でも発育する種もある。


住まいの外観や立地条件が診たく、Google Mapで調べてみた所、すぐ近くに川が流れており、隣の家の外壁の汚れ方なども注目した。現地調査をしてみないとわからないが、いろいろ問題有りそうだ。




カビ被害の対応を巡る借家居住者と大家の問題点予想

(居住者はなぜ怒っているのか!)


• カビに対する大家との主観の違い?昔の人はあまり気にしないが、住宅の建築方式や住まい方などは大きく変化しているという現実。


• 適正な調査をせずに、住まい方の問題と結論づけて、居住者に生活の制限(1年もの間我慢)をさせているような結果になっている?


• 住んでいるのは居住者である。


• 近年カビの健康被害が問題になっている。アレルギーやその他など、TVでも特集をよくやっている。




現場視察

依頼を受けて現地に向かった。不動産仲介業者の担当者との待ち合わせ時間よりも早く現地入りして、立地条件とも言うべき周辺の環境を調査した。

すると、驚くべき事実が判明した。

現場は坂の下の低地に有り、すぐ近くに川が流れていた。

さらに、現場付近の川はカーブしており、その部分は流れも弱く水が溜まっているように見えた。

このことから推測できるのは、土地自体に水分が多く、低地ということも有り湿気や湿度は高くなりがちと考えられた。

そして、視察物件と隣家の間は狭く住宅が密集していたのである。



仲介業者の担当者と合流して視察物件の敷地に入ると、入り口の塀や床面などにコケが多く繁殖していた。これを微生物被害による住宅汚染ともいい、土地がら湿度が高いのが伺えた。

居住者に出迎えられて玄関からお邪魔するとすぐにジメジメとした空気の淀みを感じ、その中にカビ臭を感じた。

室内に入ると2匹の室内犬が不審者を威嚇するように吠えていた。

当社には猫社員がおり、私自身も動物は好きで多くのペット雑誌で企画の監修や執筆をしているので、すぐに仲良くなった。

ペットを室内で飼っている割には臭いもあまり気にならないので、当日は掃除や換気をしていることが伺えた。

しかし、実際に窓も開いてあったのだが、空気が流れている感じは無かった。



1F和室

居住者に始めに案内されたのが1Fの和室であった。

特に気になっているのは押し入れだそうで、中に収納した物がカビ被害に遭い、スノコや湿気取り、ふすまを外して通気性の良いロールカーテンなどが設置されていたのだが改善できないため、現在はカビが生えてもあきらめのつく物しか置いていないとのことだった。

さらに、和室の白木の汚染状況はひどく、一見カビ汚染のようにも見えたがそれだけでは無いように思えた。白木を汚染している汚れの色には白色と黒色の2種類有り、汚染面積の多くは白色の汚れであった。

(*後に現場写真をもとに職人と協議した結果、黒色の汚れはおそらくカビ汚染と思われるが、汚染面積も広く目立つ白色の汚れは、白木の上から塗布された水性のコーティング剤が湿気により解けて浮き出たものではないかと予想した。)

白色の汚れは天井付近に行くほど多く発生していて、居住者は雑巾で拭いたがまたすぐに同じ状況になってしまったという。壁面の素材は漆喰のような京壁で要所にカビは発生していた物の、白木ほどの被害は無かった。

床面は畳で掃除を良くしているせいか顕著な被害は確認できなかったものの、居住者によるとカビは発生するが掃除をして除去していると言っていた。

窓枠の木部に結露によるシミを確認したので居住者に聞いてみると、結露もひどいことが判明した。これは、部屋全体が高湿度で湿気が多いと言う事も予想出来た。

窓冊子は単体ガラスの一般的なものであるため、立地条件や外回りのコケ被害を考えると当然とも言える。

そして、室内には窓以外のどこにも換気口や換気設備が無く、自然給排気口も無いため換気設計上問題が有るように感じた。



リビング(1F)

リビングを案内されると、ダイニングテーブルの上においてあるサボテンと一緒に飾られている流木?にもカビが生えて困ると言っていた。

そのほか、テーブルの脚部のステンレスには不思議な汚れが付着しており、カビ被害か湿度による腐食かは不明であるが、あまり診ない汚染状況であるのは間違いないと感じた。

家具と壁の間を写真に撮ると、ホコリと一緒にカビらしきものも映っていた。

居住者としては、家具と壁の隙間を作るように設置していたり、最新の換気機能付きエアコンなども設置していたのだが、この部屋にも換気口は無く結露もひどいとのことだった。

さらに、1Fのフローリング床が冷たく、スリッパを履いてないとすぐに足が冷えた。

居住者に聞いてみると、冬等は特にひどく、暖房で部屋を暖めても底冷えすると言っていた。

床下に断熱材が入っているのか疑問も感じた。



キッチン

キッチンに行くと、事前に送られてきた写真に有ったように、調味料の収納場所を見せてもらったが、さすがに食品関係の収納はこまめに掃除をしているらしく、当日はカビ被害を確認できなかったが、同じような収納場所を見てほしいと言われ扉を開けて覗き込むとカビの臭いがした。

ここには普段使用しない調理器具などを収納しているらしく、最近久しぶりにホットサンドの機械を取り出したら、カビに汚染されていたため使用を断念したと言っていた。

移動式の収納ワゴンも通気性の良いスノコのようなものを使用していたのだが、脚部の金具部分にさびや腐食を確認し、湿度との関係は不明なものの気になる現象であった。

検査機関で培養してみないとカビとは断定できないが、部屋のドア枠上部の白い汚れも気になった。

その他、2F和室、トイレ、浴室、玄関など、住まい全体的に同じような状態であった。




調査報告

依頼者の不動産仲介業者に、今回の調査報告書と改善対策見積書を提出した。

今回の事例は、単に室内表面に発生したカビを除去して防カビ剤によるコーティングを行えるもので環境改善は出来ないと判断。

建築士立会のもと床下の状態確認や窓の断熱対策及び換気計画の見直し等、リフォームを含むしっかりした再調査と施工が大切だと説明した。

しかし、大家は当然お金をかけたくなく、「居住者の住まい方が問題だ」との一点張り。

妥協案として、見た目のカビを除去して換気計画を提案したが、居住者も当然納得出来ないといい、その後3者の話し合いに委ねてこの調査を終了した。

植木照夫の掃除学研究所

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